第103話:予想外の出口

 漆黒の空間から飛び出した俺たちだったが、外に出てみるとそこは予想外の場所になっていた。


「……ここ、どこだ?」

「……見覚えのあるような場所なんだけど」

「……奇遇だな、俺もだ」

「……そうなのですか? 私は見た事がありません」


 俺の言葉に続いてエリカとガジルさんが呟き、リムルだけが困惑している。

 だが、俺も二人の言葉に同意を示してしまう。

 確かにここは見た事のある森の中だ。それも、とても馴染みのあった森なのだから。


「間違いない、ここは――ジストの森だ!」


 ジーラギ国、そこの王都であるジラギースのすぐ近くに存在していた魔獣が跋扈するジストの森。

 ジラギースで門番を勤めていた頃は、よく魔獣狩りに出ていたものだ。


「どうしてジストの森に?」

「さっぱり分からん」

「デンは何か分からないか?」

「知るはずがないだろう。だが、可能性の話で言えば、漆黒の空間が複数発生していて、出口が別の空間につながっていたとかだろうな」


 可能性の話と言っていたが、デンはほぼ確定だと思っている風な口ぶりだな。

 だが、この場所は間違いなくジストの森であり、デンの話を聞いて俺も間違いないと思ってしまっている。

 ならば、魔獣が溢れかえっているという話だったはずだが……どういう事だ?


「……魔獣の気配が、ないな」

「……でも、おかしいですよ、レインズ」

「……エリカの言う通りだ。魔獣どころか、人の気配すらしねぇぞ」

「ふむ……だが、じっとしているのも時間の無駄だろう」

「デン、行くの?」


 デンの言葉にリムルが不安そうな声を漏らす。

 だが、ここで立ち止まっていてもできる事は非常に少ない。

 それに、追い出された事もあり戻るつもりは全くないが、もしジラギースの人たちが襲われているとしたら、助けたい気持ちの方が勝ってしまう。


「とりあえず、ジラギース方面に行ってみよう」

「……いいんですか、レインズ?」

「構わないよ。というか、他に行く場所もないだろう?」

「確かに。情報を得るにしても、アクアラインズではなくジラギースの方が規模が大きいからな」


 エリカは俺が嫌な気持ちにならないかを心配してくれているのだろう。

 だが、ここで俺の気持ちなど関係はない。まず大事なのは、情報を得て俺たちが無事にサクラハナ国に戻る、という事なのだ。


「まずはジストの森を抜ける。デン、先行してもらっても構わないか?」

「任せろ。我にとっても慣れた森だからな、問題はない」


 力強く引き受けてくれたデンは、疲れを感じさせる事なく駆け出していく。

 漆黒の空間で長い時間拘束され、精神攻撃を受けていただろうに、あいつはどうしてこうも元気なのだろうか。

 もしかすると、あの魔獣もSSSランクになりたての魔獣だったのかもしれない。


「……本当に頼りになる奴だよ、お前は」


 デンには聞こえていないだろうが、俺は心の底からそう思っていた。


 しばらく森を進むと、先行していたデンが戻ってきた。

 ジストの森の境目まで行ってきたようだが、ジラギースは悲惨な状況にあるようだ。


「外壁も砕かれ、すでに都市跡になっているな」

「都市跡って……人の気配はどうだ?」

「ない」

「おいおい、マジかよ」

「それじゃあ、ジラギースを襲った魔獣はどこに行ったと言うんですか?」

「……あ、ラコスタ」


 リムルの疑問に答えたのは、エリカだった。


「そういえば、シュティナーザのギルマスがラコスタはジーラギ国から流れてきたとか言っていたな」

「え? という事は、ラコスタ以外にも多くの魔獣が周囲の国に流れていったって事ですか?」

「可能性はあるかもしれないわね」

「ちっ! って事は、俺たちがここにいるのはマズくないか?」


 ラコスタは空を飛べる魔獣だったから先行してサクラハナ国に辿り着いたのかもしれないが、他の魔獣が海を渡って辿り着いたとしたなら、最初に被害に遭うのはライバーナかもしれない。


「全力でアクアラインズへ向かうぞ!」

「でも、船がなかったら意味がないですよ!」

「だが、他に行く場所がない!」

「……そんな、みんなが……みんなが!」


 俺たちに残された選択肢は少ない。

 アクアラインズへ向かい、壊れていない船を探す。

 ジラギースへ向かい、生き残りを探して脱出方法を探る。

 そして、ジストの森に戻り漆黒の空間を探す。

 どれを選択したとしても、戻れる可能性は限りなく低い。

 誰からも明確な答えが出てこないまま、時間だけが過ぎていく。


「――誰か来るぞ」


 そんな時、デンの口から驚きの発言が飛び出した。

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