第102話:信じる

 漆黒の空間は魔獣が作り出している、それは間違いない。

 そこから探り当てる事もできるはずだが、見つけるにも時間が掛かる。

 何せ、俺が戻ってくるよりも前から作られた空間だ。魔獣の痕跡も薄くなっているだろう。

 ならばどうするのか――デンの中にある魔獣の気配を追い掛けるのだ。


「……もう少しの辛抱だ、デン」


 俺がデンを信じているように、デンも俺の事を信じてくれているはずだ。

 戻ってきた俺がどのように動き、デンを見つけてどう行動するか、お前なら分かるだろう。

 もう一度デンの体に触れた俺は、デンとは異なる気配をその体内で見つけようした。

 漆黒の空間から探り当てるより、今まさに戦っているデンの中から探り当てる方が遥かに早いのだ。


「…………いた」


 見つけた気配に俺はやや顔をしかめる。

 確かに存在するが、それは気配のみで本体が存在していない。本体はデンの精神の中にいるのだろう。

 しかし、デンが精神から本体を追い払う事ができたなら、その姿を現す場所があるはずだ。

 近すぎれば現実に戻ってきた直後に反撃を受けかねない。

 逆に遠すぎると逃げられてしまう恐れがある。

 デンから離れすぎず、近すぎない場所を中心に、デンの中にある異なる気配を探す。


「……今、助けるからな」


 デンの中の気配を深く探った事で、俺は余裕を持つ事ができた。

 なんと言えばいいのか……まあ、さすがはSSSランク魔獣、といったところかもしれない。

 気配察知をより精密に、一定の範囲で行っていく。

 上手く隠しているだろうが、デンの期待を裏切るわけなもいかない。

 魔獣キラースキルを最大限に活かし、全力で気配を見つけに掛かる。


「……」


 漆黒の空間において、わずかな揺らぎを確認できた。

 そして、揺らぎの奥には俺が探し求めていた気配の主が存在している。

 魔獣も俺たちの存在に気づいているだろうが、その居場所がバレているとは思いもよらないだろう。

 だが、ここで問題がある事に気がついた。


「……信じているぞ、デン」


 聞こえている、そう信じながら立ち上がると、俺は揺らぎがある場所へと進んでいく。

 見えないはずの場所に真っ直ぐ近づいていくのだから、魔獣の警戒は強くなるだろう。

 しかし、俺はそれでも構わないと思っている。

 何故なら――


「――良いぞ、レインズ」

「──信じてたぞ、デン」

『ヒョヒョ?』


 俺がブルーレイズを振り上げたのとほぼ同時に、デンの声が聞こえてくる。

 普段通りに軽く返すと、揺らぎの中からとぼけたような声が漏れ聞こえてきた。

 それに構わずブルーレイズを振り抜くと、揺らぎの空間と合わせて魔獣の首を刎ねる。


「空間が崩れる、さっさと出るぞ」

「あぁ。というわけだ、三人とも」


 デンに返事をしつつ、俺はガジルさんたちへ振り返り声を掛けた。

 だが、三人とも呆気にとられたように口を開けたままこちらを見ている。


「……急ぐぞ!」

「あ!」

「は、はい!」

「分かりました!」


 ガジルさん、エリカ、リムルの順に返事をしてくれる。……いや、ガジルさんのは返事だったのか?


「俺について来てくれ。デンも大丈夫か?」

「むしろ走り足りん。さっさと行くぞ」

「分かったよ」


 デンの物言いに俺は苦笑しつつ、漆黒の空間の出口めがけて駆け出していく。


「……遅いぞ?」

「はあ?」

「え?」

「きゃあ!」


 三人の声に振り返ると、デンがポイポイと背中の上に咥え投げていた。


「走れ、レインズ」

「はいはい」


 やや呆れ声を漏らしつつ、俺は先ほどよりも速度を上げて駆け出した。

 デンが遅れるはずもなく、俺たちは漆黒の空間が崩れる前に脱出する事ができたのだった。

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