第101話:デンとの再会

 何が起きるのかと最大級の警戒をしていたのだが、ただただ漆黒の空間が続くだけだった。

 正面も左右も同じなのだが、振り返ってみると不思議な事が起きている。


「……ガジルさんたちは見えてますね」

「レインズもか? こっちからも見えているぞ」

「私もです」

「わ、私も」

「ピキャー!」


 どうやらみんな見えているようだ。

 しかし、これが良い事なのかと考える事は難しい。

 何故なら、俺たちの姿が見えているから相手の姿も見えるとは限らないからだ。

 変わらず警戒を続けながら足を進めていると、奥の方に別の影を見つけた。

 そして、その影は俺が長年連れ歩いた存在であると一目で分かってしまった。


「デン!」


 声をあげてみたのだが、何故かデンは振り返らない。それどころか聞こえている素振りすら見せてくれなかった。

 それだけ警戒すべき相手が目の前にいるのか、それとも非常事態に巻き込まれているのか。

 俺はもう一度だけ振り返り目線で会話をすると、一つ頷いて前に出る。

 リムルとスノウの護衛としてガジルさんとエリカにはその場に留まってもらう。

 魔獣キラーのスキルを持つ俺でも苦戦必至の相手であれば、みんなにはさっさと逃げてもらうつもりでもあった。

 ゆっくりと足を進めていき、デンとその前方を視界に捉えながら、隣に並び立つ。


「……デン? 聞こえるか、デン!」


 ……返事がない。しかし、死んでいるわけではない。何故なら、契約をしている俺との繋がりが消えていないからだ。

 ならば何故、反応してくれないのか。

 俺は左手でデンの体に触れてみる。


「……温かい。ならば、意識だけをどこかに飛ばしているのか?」


 精神に攻撃を受けている可能性が高いか。

 ならば、この空間についても頷ける。

 漆黒――闇という空間は総じて卑屈なイメージを抱きやすい。

 もちろん、そうではない人もいるが俺は卑屈なイメージを持っている方だ。


「……だが、問題はないか」


 しかし、今回は相手が悪かった。

 相手が人間であれば精神を汚染して心を破壊、そのまま自害に追い込む事もできたかもしれない。

 だが、相手は魔獣でありSSSランクのシルバーフェンリルである。

 魔獣という時点で闇に対して人間とは異なる感覚を持っているし、そもそもSSSランクという実力差があるはずだ。

 相手も同様にSSSランクであれば話は別だが、精神攻撃を得意としている魔獣であれば、デンが耐え抜いた時点で勝利は確定するだろう。

 ……逆を言えば、ここでデンが負けるようなら俺たちも全滅する可能性が高いという事だが。


「……信じているぞ、デン」


 俺は一度デンから離れてガジルさんたちのところへと戻る。

 推測ではあるが俺の考えを伝えて、戻るか残るかを決めてもらう事にした。


「デンは精神攻撃を受けているはずだ。デンが勝てばこの空間も消えるはずだが、もし負けてしまえば今度は俺たちが精神攻撃を受ける事になる。避難するなら今の内だが……どうする?」


 俺の言葉に三人とスノウが顔を見合わせた後、ほとんど同時に口を開いた。


「残るぜ」

「残るわ」

「残ります」

「ビギャギャー!」

「……死ぬかもしれないんだぞ?」

「そんなもん、覚悟の上でここまで来てるってんだよ」


 念押しの言葉に対してもガジルさんがはっきりと反論し、それに全員が大きく頷いた。

 これ以上の言葉は意味を成さないと理解した俺は、小さく息を吐き出してから再びデンへと視線を送った。


「……さて、俺は俺にできる事を探しておくか」


 精神攻撃を受けているのがデンというだけで、俺に何もできないわけではない。

 そもそも、この空間を作り出しているのが魔獣であれば、魔獣キラーのスキルが往々にして役に立つという事だ。

 ガジルさんたちには念のために警戒態勢を取ってもらい、俺はブルーレイズを片手に再びデンの横に立った。

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