閑話:アクト・フィンネリン視点
ジーラギ国は衰退の一途を辿っている。
今は王族を守るための近衛騎士も前線に出てくれてなんとか保たれているが、これもいつまで続くか分からない。
それもこれも、あの使えない元統括長のせいだろう。
俺が着任した時点で多くの兵士が異動、もしくは解雇されていた。
貴族ではなかったが実力で門番長まで上り詰めたガジルさんまでもが退職していたのには驚いた。
それも元統括長が退職者を募っていたというのだから、マジで使えない奴だったな。
「アクト!」
そんな事を考えていると、俺はジラギースの全戦力をまとめている近衛騎士隊長のリーン様に呼び止められた。
「はっ! こちらにいます!」
「すまないがまた魔獣が押し寄せてきた。指揮を頼めるかしら?」
「もちろんです!」
今ではリーン様が兵士と騎士の区別なくまとめてくださっているので本当に助かっている。
そして、その中で私の力を発揮させてもらっているのもありがたい事だった。
「アクトのスキル、本当に助かっているわ」
「いえ、私にできる事ならこれくらい」
私のスキルであるパーフェクトタクトは、私の指揮下にいる者の動きが良くなるというものだ。
そのおかげもあって私が指揮官に任命される事も少なくなく、前線の被害を減らす事もできている。
「しかし、このままではじり貧ですよ、リーン様」
「えぇ、分かっているわ」
私もリーン様も、むしろこの場に残っている誰もがその事を理解しているだろう。
いっそのこと国を捨てて移住した方が良いのではと思う者も出てきているくらいだ。
「……そうだ、アクト」
「はっ!」
「噂で聞いたのだが、以前にスキル魔獣キラーを持った者がいたと聞いた。元統括長のせいで追い出されたらしいのだが、あなたはその方を見た事はありますか?」
キラー系のスキルか。
その噂は私も聞いた事がある。ただし、扱いはとても酷いものだったという話とセットでだ。
「申し訳ありませんが、私が着任した時点でもういませんでした」
「そうでしたか。その兵士がいてくれたら、これほどの被害は出なかったのではと思ったのですが……」
「そうですね。ガジルさんなら知っていると思うのですが、彼も退職していますし」
「……ガジル?」
「はい。元門番長の兵士でして、平民でありながら実力で門番長まで上り詰めた人物です。彼はキラー系スキル持ちの兵士とも交流を持っていたようで――」
「平民ですか、そうですか」
……あぁ、そうなのですか、リーン様。あなたも、そうなのですね。
「……まあ、キラー系スキル持ちの兵士も平民のようですから、なれ合いだったのかもしれませんね」
「そうですね。平民は貴族に使われるべき存在。元統括長は使い方を間違えた、ただそれだけの話でしょう。キラー系スキル持ちの兵士なら、それを上手く使わなければね」
私は気持ちを切り替える事にした。
平民だから悪、キラー系スキル持ちだから悪、そういった常識が貴族に根付いているのは分かる。
だが、その常識をリーン様なら覆してくれると思っていたのだが……彼女も生粋の貴族だったという事だろう。
「次の戦場もよろしく頼みますね、アクト」
「はっ! お任せくださいませ、リーン様!」
ガジルさんの話をした時の無表情とは異なり、私には優しい笑みを向けてくれ去っていった。
(……これが貴族か。まあ、私も貴族ではあるがな)
父上も母上も兄上たちも、リーン様と同じ思想の持ち主だ。
だが、三男である私は結構自由にさせてもらっていたので城下にもこっそり足を運んでいた。その時にガジルさんと顔を合わせたのだ。
私が伯爵家の人間だと隠していたものの、彼の人となりは尊敬に値するものだと今でも思っている。
(……国を捨てて移住する、か)
私も考えなければならない時期に来ているのかもしれないな。
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