第92話:大宴会
この日の夜は多くの酒場で大宴会が行われた。
ギルマスも参加しているようで、色々な酒場をはしごしては金を置いて冒険者たちの支払いの一部を担っているようだ。
何故知っているのかと言えば、大宴会に俺たちも参加しているからだ。
俺は疲れているので休みたかったのだが、レミーが無理やりに俺を引っ張っていき、エリカもそこに参加したいと言い張ったのでこの結果である。
ちなみにギースはお休み中だ。彼も参加したがっていたのだが、そこは大人の判断でヒロさんがストップが掛かったのだ。
……仕方ないな、ギースよ。諦めが肝心だ。
「よ~う! 飲んでるかぁ、レインズゥ!」
「飲んでますよ、ギルマス」
「ギルマスだ~? てめぇ、その割には素面じゃねえかよぉ~!」
いや、ギルマスが酔い過ぎなだけである。
「なんだギルマス! 酒に飲まれてるんじゃないのかい?」
「あぁん? レミー、てめぇも飲み足りないだろう! もっと飲め飲め~!」
「ギリュマシュ~! あたひはにょんでましゅよぉ~!」
……お前は飲み過ぎだ、エリカ。そんな姿は初めて見たぞ。
「おぉ~! さすがだなぁエリカ~! 夜はこれからだぁ! もっと飲むぞぉ~!」
「おぉぉ~!」
エリカがギルマスと肩を組んで酒場の中を歩き回り始めた。
まあ、ギルマスが付いているなら問題は起きないだろうし、別の酒場に行くならもう一度こっちに寄ってくれるだろう。
「……しかし、本当にお疲れ様だね」
「……まぁな。空を飛ばれるだけであれだけ苦戦する事になるとは思わなかったが、結果オーライだよな」
「そうだね。犠牲も最小限で済んだわけだしね」
「……犠牲か。そういえば、ザックたち以外に被害は出たのか?」
最終的な被害状況を俺は聞いていなかった。
レミーはバルスタッド商会に足を運んでからわざわざ冒険者ギルドに戻って情報を得ていたのだ。
申し訳なく思ったのだが、これがAランク冒険者という事だろう。情報は武器にもなるからな。
「多少のけが人は出たけど死人は出てないよ。死んだのは自己中心的な動きをしたザックたちだけさ。自業自得だね」
「そうか。なら、結果としては良い方に入るのかもな」
「良い方だって? 最高の最高じゃないか! 正直言ってザックはランクだけは高かったけど、あまり気に入られてなかったからねぇ。冒険者なんていつ死んでもおかしくない職業だし、最悪の結果を願っている奴もいると思うよ?」
うーん、さすがに人が死んで良かったとは思えないんだが……まあ、俺の中の記憶では出会ってきた中で最悪の人物だったのでそこまでの悲しみはないのだけど。
「そのうちレインズも分かるようになるさ。冒険者を続けていたらね」
「俺はウラナワ村の門番であって冒険者ではない」
「まーだそんな事を言っているのかい? まあ、ウラナワ村にいるってのが分かってるなら色々と巻き込まれる事になると思うから覚悟しておくんだね!」
「……そうなのか?」
巻き込まれるだって? いやいや、それはさすがに止めてもらいたい。
居場所が分かってるからって巻き込まないで欲しい。
「そこはギルマスの判断だろうね」
「わざわざシュティナーザからウラナワ村まで来るのか? ないだろう」
「違うっての! 前に言っただろう、ライバーナにも支部があるって」
「それは知ってるが、そこにギルマスがいるわけじゃないだろう?」
ギルマスはシュティナーザ支部のギルマスであって、ライバーナ支部のギルマスではない。
そのはずなのだが、どうやら俺は冒険者ギルドについて何も知らなかったようだ。
「冒険者ギルドは登録した冒険者の情報を共有しているんだよ。それはシュティナーザ支部が管理している支部だけじゃなくて、本部のギルドにも通達される。だから各支部で手に負えない状況が生まれたら呼び出されるかもしれないよ?」
「……そ、そうなのか?」
俺が身を引きながらそう口にすると、レミーはニヤニヤしながら頷いている。
……あ、ヤバい。これはマジだ。
「……い、今からでも解約できるか?」
「自ら破棄したら一生再登録ができなくなるよ?」
「……マジか?」
「マジよ~」
レミーめ、知ってて言わなかったな。
これ、自分から面倒に飛び込んでしまったかもしれない。
「レインジュ~! えへへ~、ただいま~!」
「……はぁ」
「ん? おいレミー、こいつどうしたんだぁ~?」
「なんでもないよ~」
この後、ギルマスは別の酒場に移動したのだが、俺の落ちた気持ちは上がる事はなかった。
エリカも酔いつぶれてしまい、これ以上は楽しく飲めないと判断した俺は彼女を背負って宿屋に戻る事にした。
「……ったく。レミーの奴、やってくれたよなぁ」
夜風に当たりながらそんな事を呟いていると、寝言なのかエリカが何か呟いている。
「……レインジュ……しぇんぱい……」
「……こいつ、ジーラギ国の頃を夢で見ているのか?」
少しだけ微笑みを浮かべ歩いていると、さらに呟きは続いていく。
「……しぇんぱい……しゅき……」
「…………え?」
「……すー……すー……ぅんん……すー……すー……」
「……寝言、だよな?」
まさか、このタイミングで困惑の極みに至る事になるとは思いもしなかった。
だが、今の言葉を確認する方法が俺にあるはずもなく、無駄に色々と考えながら宿屋へ向かうのだった。
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