第85話:状況説明
勢いよく開け放った扉の先には多くの冒険者が集められていた。
そして、その先頭で一段高い場所からこちらを見渡しているのはギルマスだ。
「みんな! よく聞いてくれ! 以前から確認されていたAランク魔獣がついに西の森までやってきてしまった! 準備を整えてから討伐に向かう予定だった者もいるだろうが、事態は差し迫ったものになってきている! 故に、今回は緊急依頼として冒険者に召集を掛ける事にする!」
冒険者になった時に説明されたな。
確か、冒険者ギルドに登録している冒険者を強制的に召集して危機を防ぐというものだ。
まさか、冒険者になった翌日に緊急依頼が発令されるとは思わなかったぞ。
「相手はAランク魔獣のラコスタだ! 直接対応するのはDランク以上の冒険者のみで、Eランク以下の冒険者は周囲に散っている魔獣の討伐、及びシュティナーザの防衛に当たってもらう!」
「報酬はどうなってるんだー?」
どこからともなくそんな声が聞こえてきた。
「もちろん、参加しただけでランクに応じて報酬を渡す! Dランク以上は特に報酬が高いから、絶対に生き残れよ!」
「さっすがギルマス! 太っ腹だな!」
がははと笑い声まで聞こえてくる状況に、俺は少しだけ驚いてしまった。
「Dランク以上には50万リーグ! Eランク以下には20万リーグ! そして、魔獣の討伐証明を持ってくればもちろん、その分の報酬も上乗せしてやる! さらにAランク魔獣を討伐した野郎にはさらに50万リーグをギルドから支払ってやるぞ!」
「「「「おおおおおおおおぉぉっ!」」」」
冒険者たちの大声でギルド支部が震えている。
さすがはギルマスと言うべきか、冒険者を鼓舞する事に慣れているみたいだな。
しかし……くそっ、ここにはいなさそうだな。
「三人とも、無事なんだろうなぁ」
ギルマスが状況を説明している間にも、外から低ランクと思われる若い冒険者が戻ってきている。
その中にも三人の姿はなく、まだ外にいる可能性が高い。
「それじゃあてめぇら――稼ぎやがれええええええええぇぇっ!」
「「「「おおおおおおおおぉぉっ!」」」」
最後の掛け声を終えると、冒険者たちは次々にギルド支部を後にしていく。
その中にはエリカにぶん投げられたザックの姿もあり、俺と目が合うと小さく舌打ちをしていた。
……俺は何もしていないんだがなぁ。
「ギルマス!」
「おぉっ! レインズじゃねえか! お前も冒険者になったんだろ? 正直助かるぜ」
「だが、俺はFランクだ。Aランク魔獣の討伐には行けないんだよ」
「ん? Eランクじゃないのか?」
「そこは断った。いや、それよりもだ。俺と一緒に冒険者登録をした二人とレミーを見なかったか?」
俺は話を切るや否やすぐに質問を口にしたが、ギルマスは首を横に振った。
「お前の連れを見た事がねぇから分からんが、レミーは見てないな」
「そうか。……西の森に行ってなければいいんだが……」
「何か依頼を受けていたのか? なら、ちょっと待ってろ。こっちで調べられるかも――」
「師匠!」
そこへ聞こえてきた声へ、俺は弾かれたように振り向いた。
「ギース! お前、大丈夫だったのか?」
「は、はい! 俺は大丈夫です! でも、エリカさんとレミーさんが魔獣の足止めを!」
「何だと!? って事は、レミーともう一人の連れは西の森にいるのか!」
くそっ! 嫌な予感ほど当たるもんだな!
「あ、相手は鳥型の魔獣で、レミーさんは相性が悪いって言ってたんだ!」
「だろうな。レミーのスキルも、エリカのスキルも空を飛ぶ魔獣には相性が悪すぎる」
「下りて来なければ当てられないからな」
ギルマスも同意を示してきた。そして、俺が空の魔獣に対する攻撃手段を持っている事も彼は知っている。
「……仕方がないか」
「行ってくれるか、レインズ?」
「他の冒険者が文句を言って来たら、ギルマスが対応してくれるんだろう?」
「任せろ! っていうか、今のシュティナーザでラコスタを討伐できそうなのがレミーとお前さんしかいないからな。問題にもならんだろう」
「それ、召集しておいて言っていいセリフなのか?」
命の危険を伴う緊急依頼だ。勝算もなしに召集したと知られたら問題になりそうな気もするんだが。
「勝算ならあったさ。レインズ、お前だよ」
「人任せかよ」
「なーに、最悪の場合は俺が出る予定だったが、最初は現役の冒険者に任せるのが俺の流儀なんだよ。お前も似たような事を俺に言っただろう?」
本職が依頼に挑むべき、って言ったやつか。全く、ギルマスは変な事まで覚えているんだな。
「……そうだな。今の俺は冒険者であり、自分の言葉に責任を持つためにも行くしかないか」
「師匠、俺も案内くらいならできる! だから一緒に――」
「ダメだ。ギースはギルマスと一緒にシュティナーザ防衛に回ってくれ」
「でも!」
「死にたいのか?」
「ぅっ! ……わ、分かりました」
肩を落として俯くギース。俺はやや乱暴にその頭を撫でると歩き出す。
「安心して待ってろ。俺が二人を助けて戻ってくるから」
「……分かった。でも、次はもっと強くなって一緒に行くからな!」
「期待しないで待ってるよ」
軽く手を上げて返事をすると、俺は全速力で駆け出しシュティナーザの門を抜けて西へと進んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます