第86話:疾走
シュティナーザを先に飛び出していったDランク以上の冒険者たちに追いつくと、先頭を進んでいたフリックさんを見つけて声を掛けた。
「フリックさん!」
「レインズか! 来てくれたんだな!」
「はい! エリカたちが西の森でラコスタを食い止めているみたいなんです!」
「って事はレミーもいるのか。だが、今回の魔獣は鳥型の魔獣だ、相性が悪すぎるだろう!」
「だから俺も行くんです! 俺はバードスラッシュのスキルも持ってますから!」
俺の記録を見ていたフリックさんなら気づいていただろうが、あえて口にする事で近くで聞いていた他の冒険者にもFランクの俺がここにいる理由を伝えておく。
「……だったな! それにキラースキル持ちなんだから、しっかり働いてもらうぞ!」
俺の意図に気づいたのだろう、フリックさんがさらに衝撃的な一言を口にするとどよめきが走った。
「キラースキル持ちだってよ!」
「マジかよ! これは楽に報酬をゲットできるんじゃねえか?」
「あらやだ、よく見たらいい男じゃないの?」
最後の方だけは背筋がゾッとしてしまったが、俺は構う事なく前に進もうとした。だが――
「フリックさんよ! そいつはFランクだろうが!」
キラースキル持ちだと知ったうえで文句を言う奴がいた。
こっちは急ぎたいのにどうしてこうも面倒を起こしたがるんだろうな、こいつは!
「Fランクだがキラースキル持ちだ! それも鳥型の魔獣に通用するものだ!」
「だからってギルマスの達しに逆らってこんなところに来るとか、邪魔以外の何者でもないだろうが!」
「ギルマスにも許しを得ている! これで満足か、ザック!」
「て、てめぇ! 下のランクのくせに呼び捨てにしてんじゃねえぞ!」
俺の方が年上なんだからそこはどうでもいいだろうに。どうやらこいつは絡みたいだけなんだろうな。
付き合うだけ時間の無駄か。
「俺は先に行きます!」
「てめぇ! 待ちやが――」
「おう! 行ってこい、レインズ! 道中の魔獣は無視して構わないからな!」
呼び止めようとするザックの言葉を遮りながらフリックさんが背中を押してくれた。
さらに魔獣は引き受けるとまで言ってくれたのもありがたい。
俺はその言葉を胸に刻み込み、他の冒険者たちを置いてけぼりにして森へ足を踏み入れた。
『――グルアアアアッ!』
『――ピキャアアアアッ!』
『――シャアアアアッ!』
サクラハナ国に来てから初めて目にする魔獣ばかりだったが、俺は気にする事なくその横をすり抜けていく。
無視できない魔獣だけはブルーレイズを抜いて斬り捨てていくが、時間が惜しいので一振りで仕留めていく。
森の入口付近にいる魔獣は有象無象だらけ、良くてDランクの魔獣と言ったところだろう。こいつらはラコスタから逃げてここにいるだけに過ぎず、倒す事ができれば元の縄張りに帰っていくはずだ。
すでに森の奥で巨大な気配を感じ取っている俺は迷う事なく気配の方へ進んでいく。
そして、二人が戦っているだろう戦闘音が聞こえるところまでようやくやって来た。
「……見えたぞ!」
赤に黄に緑の翼を羽ばたかせながら上下に移動を繰り返しているAランク魔獣のラコスタ。
巨大な嘴が開かれるたびに耳をつんざくような奇声を発して三半規管を狂わせ、自らの羽根を飛ばして攻撃を仕掛けているようだ。
俺はまだ離れているから奇声もそこまでうるさいとは思わないが、近くにいる二人はどうなっているのか。
「……よし、あれだ!」
ラコスタから少し離れたところに生えている大木を目指し駆け出した俺は、その大木を一気に駆け上がり太い枝の上に移動すると――そのまま飛び上がってブルーレイズを振り上げた。
「はああああああああっ!」
『ギギャアアアアアアアアッ!』
首を落とす直前に気づかれてしまい一振りで決める事はできなかったが、それでも翼に傷を付ける事には成功した。
しばらくは空を飛ぶ事も可能だろうが、持久戦に持ち込めば徐々に高度を落とすに違いない。
「「レインズ!」」
「二人共、無事か!」
着地と同時に声の方へ飛び退くと、二人が武器を手に傷だらけのまま立っていた。
「えぇ、問題ないです!」
「こちとらAランク冒険者なんでね! あたいも問題ないよ!」
「持ちこたえてくれたんだな。後は俺に任せて二人は下が――」
「まさか、あたいたちに下がれとは言うんじゃないだろうね?」
「このまま戦います! 足手まといにはなりません!」
まさに下がれと言おうとしたんだが、言われてみれば二人が素直に従ってくれるはずもないか。
それに、ここで俺だけがでしゃばれば手柄が全部俺だけのものになってしまう。
命の危険もあるが、その覚悟があるからこその発言って事だろうな。
「……仕方がない。なら、一緒にラコスタを討伐する!」
「はい!」
「討伐するとは言ったが、具体的な策はあるのかい? 正直、あたいもエリカも相性が最悪なんだよね」
「俺にはバードスラッシュのスキルがある。だが、初撃は絶対に当てたい」
「警戒されてしまうからね。……それなら、あたいたちは陽動って事でいいのかい?」
「動き回るのは得意ですよ!」
その傷でまだ動き回るつもりなのか。本当に強くなったな、エリカは。
「……頼む!」
「よーし! そんじゃまあ、第二ラウンドといこうかね!」
「やってやるわよ!」
俺の左右から前に飛び出していく二人の背中を見送ると、俺はラコスタから目を離さないよう注意しながらゆっくりと動き出した。
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