第83話:移住の可否

 その後、レミーと分かれた俺たちは宿屋に戻るとヒロさんも交えて夕食を取る事になった。

 すでにバージルも戻ってきており、全員での夕食だ。


「ほほう。そのハルクという鍛冶師が移住をしたいと?」

「はい! 師匠が移住してくれればウラナワ村は確実に発展します! そして、私も腕を磨いてみんなの助けになれるんですよ! お願いします、ヒロさん!」


 ものすごい勢いで頭を下げたバージル。……頭がテーブルにぶつかっているぞ。


「まあ、いいのではないですか?」

「本当ですか! ヒロさん!」

「というか、私に可否を決める権利などありませんからね」

「一応、この中では最年長ですし」

「ふふふ、ありがとうございます、レインズ君。では、戻りの日程だけでもお伝えしておいてください」

「明日も向かうのでその時にでも!」


 とりあえず、ハルクさんの移住に関して問題がなくなってよかった。

 バージルもそうだが、俺としても世話になるだろうしありがたい限りだ。


「あ、言っておくけどレインズの剣は私が打つからね?」

「お、おぅ、分かった」

「そんな心配そうな顔をしないでしょ! 師匠に指導してもらえれば、今よりも確実に腕を上げられるからさ!」

「それじゃあ私はハルクさんに打ってもらおうかな!」

「えぇー! エリカのも私に打たせてよー!」


 そこで抜け駆けしようとするエリカにバージルが拗ねたように声をあげた。

 まあ、エリカの剣も結局はバージルが打ったわけだし、俺と一緒に練習台になってやればいいさ。

 となると、ハルクさんの剣を受け取れるのは……。


「それじゃあ俺が――」

「ギレインやガジルさんだろうな」

「俺じゃないんですか、師匠!?」

「いやいや、お前にはまだ早すぎるだろう」


 ギレインはガジルさんの指導で確実に腕を上げているし、ガジルさんの実力は誰もが理解している。

 一方でギースの実力はまだまだであり、他の自警団よりも劣るのだからハルクさんの剣を受け取るには足りないものが多過ぎるからな。


「ちぇー」

「実力以上の剣を持ってしまうと、自分が強くなったと錯覚する者も出てくる。実力に合った剣を持つのも戦う者の務めだぞ?」

「……はーい」


 さて、今後の事が色々と決まったところで俺は直近の予定について確認する事にした。


「明日のヒロさんの予定は?」

「えぇ。足の痛みも引いてきましたし、いくつか回っておきたいところもあるので護衛をお願いしたいですね」

「分かりました。バージルはハルクさんのところに行くんだよな?」

「もちろん! だから、師匠の鍛冶屋に連れて行ってくれたら後は好きにやるわ!」

「それじゃあ、私とギース君が送っていくわ! その後にレミーさんと合流して依頼をこなすんだから!」

「魔獣狩りだ!」


 楽しそうに話をしているエリカとギースを見たからか、ヒロさんが申し訳なさそうに俺に声を掛けてきた。


「レインズ君はいいのですか?」

「はい。身分証の代わりに手に入れただけですし、レミーの話ではライバーナにも冒険者ギルドの支部はあるようですし、依頼をこなす程度なら問題はないかと」

「あぁ! そういえばそうでしたね。私とした事がうっかりしていました」


 苦笑しながら頭を掻くヒロさんを見て、本当に忘れていたんだと少し驚いてしまう。


「ヒロさんにもうっかりがあるんですね」

「私も人間ですからね。それに、ライバーナにはここ最近は足を運んでいなかったので」

「ヒロさんの商品はシュティナーザ以外には卸していないんですか?」

「どうしてもと言われれば卸す事もありますが、基本的にはシュティナーザだけですね。移動が面倒ですし、そこまでお金にも困っていませんから」


 面倒を抱え込んでも稼ぎたいとは思っていないって事か。


「シュティナーザであればルシウスもいますし、他にも知り合いが大勢いますからね。これくらいならば問題ありませんし、私も楽しめますから」


 楽しみがなければ長距離移動は耐えられないだろうな。


「それは確かにそうですね」

「えぇ。そうそう、ウラナワ村に戻ったら私からも村長に口添えをしておきますよ」

「口添えとは?」

「冒険者ギルドのギルド証を失効しないためにライバーナへ定期的に向かう事ですよ」

「大丈夫ですよ。休みの日に向かって簡単な依頼を――」

「ダメですよ、レインズ君。身分証を確保するのも大事な事です。仕事の一環として向かう事ができるよう、口添えするんですよ」


 そこまでしてもらう必要はないと思うんだが……いや、そうか。

 身分証に関しては俺だけではなく、エリカやギースにも関わってくる事なんだったな。


「……分かりました。よろしくお願いします」

「もちろんです。エリカ君とギース君もよろしいですか?」

「はい!」

「俺もいいんですか!」

「えぇ。あなたは身分証を持っていますが、せっかくのギルド証ですからね。失効するのはもったいないですから」

「あ、ありがとうございます! ヒロさん!」


 最終的に決定するのは村長だが、この様子だと断らないだろうな。

 俺たちは夕食を済ませると、明日に備えてまだ早い時間だったが休む事にしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る