第82話:Fランク冒険者

 地下の闘技場から上に戻ると、そこには受付をしてくれた受付嬢のチェルシーが何故か満面の笑みで出迎えてくれた。


「お疲れ様でした、レインズ様!」

「私たちも疲れたわー! そうよねー、ギース君?」

「うえっ!? あ、はい! そうっすね!」

「……ちっ!」

「ちょっと! あなた舌打ちしたでしょ!」


 ギャーギャーと騒いでいる二人は置いておき、俺はフリックさんに視線を向けた。


「……これ、フリックさんにお願いしても?」

「んあー……まあ、そうなるかぁ」

「ちょっと、フリックさん! これは私の仕事ですよー!」

「てめぇが仕事をしないからだろうが!」

「んもー! それじゃあ手続きをしますね! 皆さん来てください!」

「最初からそう言いなさいよ!」


 ……はぁ。ようやく話が進んでくれたか。

 と言うわけで、俺たちは問題なく冒険者になる事ができた。

 だが、そこで一つだけ問題が起きてしまった。


「ん? どうして二人はFランクで俺だけEランクなんだ?」

「そりゃおめぇ、レミーに勝っちまったんだぞ? 本当ならDとかCにしたいくらいだ」

「何だったら同じAでもいいんじゃないのかねぇ?」

「そりゃお前、やり過ぎだろう」

「えぇー? でも、私に勝ったのよ? それくらいいいじゃないのよー?」


 おいおい、レミー。そんな大声で言わなくても――


「――マジか? Aランクのレミーに勝った?」

「――嘘でしょ? あんなおっさんが?」

「――手加減されたんじゃないか?」


 ……ほら。変な噂が流れてしまったじゃないか。


「とにかくだ! これは俺が判断した結果だから納得しろ!」

「……俺もFランクから進めたいのだが?」

「普通は上のランクから進めたいものなんだがな?」

「身分証代わりだからな。別に上のランクになりたいわけじゃない」

「……はあぁぁ。分かったよ。全員Fランクだ! それでいいか!」

「あぁ、構わん」


 これ以上は変に目立ちたくないからな。いきなりEランクにでもなったらそれこそ面倒からやってきそうだ。……ザックみたいな奴からな。


「はーい! それじゃあこちらが皆様のギルド証になります! 失くさないように気をつけてくださいね! あ、レインズ様は失くしても私に言っていただければ無料で再発行を――」

「悪用されるかもしれねえから絶対に失くすなよ」

「フリックさーん!」

「てめぇはちゃんと仕事をしろ!」

「えぇー! だってー!」


 この二人、相性がいいんじゃないか?


「お、俺たちは行くぞ?」

「おう! まあ、お前さんらなら確実にランクを上げられるだろう。しっかりやれよ!」

「お、お待ちください! レインズ様~!」


 ……シュティナーザの冒険者ギルドには入り辛くなってしまったな。

 ともかく、無事にギルド証を手に入れる事ができ、俺たちは身分証を手に入れたのだった。


 外に出ると、ついて来ていたレミーが大声で笑い始めた。


「あははははっ! あんた、本当に面白いんだね!」

「あれの何が面白いんだ? 面倒しかなかっただろうが」

「いやいや、面白いよ! まさかEランクスタートを断るとか、あり得ないからね!」


 俺としては面倒から遠ざかりたいし、当然の結果なんだがな。

 ランクを上げて実入りの良い依頼を受けたい本職の冒険者としてはあり得ない決断だと言うのも理解はできる。

 まあ、冒険者になる理由も人それぞれだという事だな。


「それにしても! レミーさん、とても強いんですね!」

「ん?」

「レインズと打ち合って勝てるなんて、さすがAランク冒険者です!」

「とはいえ負けちゃったけどね。本当に恐ろしいわ、キラー持ちでここまで鍛錬をしているとは」

「それでもですよ! レインズはジーラギ国でも変に手加減する癖が付いていて、なかなか本気にならなかったんですよ?」

「……そうだったか?」


 手加減をしていたつもりはこれっぽっちもないんだがな。というか、中の下程度では手加減とかできるはずがないだろう。

 ……ん? なんだその目は、エリカ?


「気づいていなかったんですね」

「気づくも何も、していないが?」

「……もういいです。それよりもレミーさん! 今度、私と一緒に依頼を受けてください! 魔獣狩りでも構いませんから!」

「あっ! それなら俺も行きたいです!」

「いいねぇ! レインズも行くかい?」


 ……こいつら、本来の目的を忘れているんじゃないか?


「俺はヒロさんとバージルの護衛を続けるよ。三人で行ってこい」

「「……あ」」


 すっかり忘れていたみたいだな。

 とはいえ、ずっと二人に付きっ切りも息が詰まるし、二人には息抜きも必要だろう。……まあ、十分息抜きしている気もするが。


「いいさ、行ってこい。こっちは俺がやっておくから」

「……ありがとう、レインズ!」

「よっしゃー! 魔獣を狩りまくってやるぜ!」

「あ、ギースは気をつけろよ。本当に気をつけろよ?」

「師匠、ひでぇよ!」


 という事で、三人はその場で明日は一緒に依頼を受ける約束をしていた。

 ……それにしてもエリカよ。お前はずっとレミーを嫌っていたと思っていたんだが、いつの間に仲良くなったんだ?

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