第81話:VSレミー
俺たちの話が聞こえていたのか、頭を掻きながら近づいてきたフリックさんもすぐに了承してしまった。
「俺としてはレインズの相手もしてみたかったが、さすがに疲れた!」
「それじゃあ問題ないわよね!」
「あぁ。レインズもすまんな、こんなじゃじゃ馬の相手をさせてしまって」
「ちょっと! じゃじゃ馬とは何よ!」
「あん? 間違っていないだろうが!」
……言い合いをするのはいいんだが、俺の事を無視しないでもらいたい。
とはいえ、レミーと実技試験を行うとなれば俺も気を引き締めなければならない。
フリックさんが元Aランクで、レミーは現役のAランク。実力的には確実にレミーの方が上だろう。
それにレミーのスキルは槍に重さを追加して威力を高めるものだと聞いている。打ち合いになると分が悪いし、そもそも木剣が形を留めてくれるかどうかも不安が残る。
「……これでいくか」
総合的に、俺はブルーレイズよりも長く幅の広い、大剣に分類されるだろう武器を選んだ。
「あれ? 大剣でいいの?」
「相手に合わせて武器を選択するのも大事だからな」
「ふーん……まあ、あたいはレインズが本気で戦ってくれるならどっちでもいいけどね」
レミーは当然ながら、木槍を選択した。それも普通の大きさではなく、重槍と言うべきかな。
普段使っている槍も同じ位の大きさなので、レミーも本気という事だろう。
「……全く。一筋縄ではいかないな」
ため息をつきながら、俺は大剣を肩に担いで中央へ移動する。
すでにレミーも槍を構えてこちらを見据えておりやる気満々だ。
「審判はフリックさんにお願いしても?」
「そうだな。じゃじゃ馬がやり過ぎてしまわないように注意しておくわ」
「一言多い!」
「おぉ、怖っ! ……とまあ冗談はこれくらいにしておいて、お互いに準備はいいか?」
肩を竦めたフリックさんだったが、最後には真剣な表情で確認を取ってくる。
俺が頷き、その後にレミーも頷いた。
「よーし! それじゃあ始めるぞ。実技試験――開始!」
開始の合図と同時にレミーが突っ込んでくる。舌なめずりをしている姿は……うん、確かにじゃじゃ馬だ。
「はあっ!」
「っと! ……観察している暇はなさそうだな」
鋭い突きが眼前に迫り、俺は半身になり紙一重で回避する。
だが、レミーもこれくらいは予想していたのか柄を回し、密着している状態だというのに穂先で俺を狙ってくる。
木槍なのだからわざわざ穂先にこだわらなくてもいいのだが、これも本気だからだと捉えておくか。
さすがに間近での一撃を回避できるほどレミーの腕は甘くなく、大剣で受け止めた。
「くっ! さすがに、重いな!」
「ヘビーランスの効果、体感したかい?」
「あぁ。これは、何度も受けてはいられないな」
受けた威力を利用して距離を取ってから軽く腕を振る。
鋭い槍捌き、そして動きも軽やかだし、そこにヘビーランスの効果が上乗せされる。これが普通の直剣ならすでに折れていただろう。
さすがはAランク冒険者という事か。
「なら、何度も受けさせて圧倒してやるさ!」
ヘビーランスの効果が上乗せされた連突き。これを受けていては確かに大剣でもすぐに折れてしまうだろう。
なので、俺は回避を交えながら槍の軌道を変えるように受け流す。
力の方向を逸らされて体勢を崩してくれればありがたかったが、そのようなミスをするような奴がAランクにはならないか。
「へえっ! 面白いな、レインズは!」
「まずは小手調べだ。今度は――俺から行くぞ!」
左肩を狙った一撃を上方へ弾き、その場で回転して横薙ぎを放つ。
穂先が上を向いたままだが、レミーは柄を地面に突き立てて横薙ぎを受けた。
ならばと横へ移動しながらショルダーチャージを放ち体勢を崩す。
「なかなかやるじゃないか!」
「まだだ」
「なっ!?」
今の動きを見るに、対人戦にも慣れているだろうレミーに対して大剣で勝てるとは思えない。
ならば、虚を突いた一撃で賭けに出る。
大剣を手放した俺はレミーの握る槍の柄に手を伸ばして押し込む。
ショルダーチャージによって重心が後ろに傾いていた事もあり、レミーは踏ん張る事ができない。倒れるまではいかなくとも、体勢を整えようとたたらを踏んだ。
「はあっ!」
「ぐはっ!?」
地面を踏みしめていない以上、武器に力を込める事も不可能。
握り込んだ槍の柄をそのまま上に向けると、俺は肘を畳んでレミーのみぞおちに叩き込んだ。
それでも柄を手放さなかった事には感嘆してしまうが、今回の場合は悪手である。
そのまま足を払うと簡単に倒れてしまったレミーに対して、槍の柄を首元に当てて勝敗を決した。
「このまま押し込めば、レミーを殺す事もできそうだな」
「……ったく。現役Aランク冒険者を圧倒するとか、恐ろしいわね」
「それまで!」
十分に実力を発揮できたはずだ。
「……こりゃあ、規格外の逸材だな」
俺たちは実技試験も突破し、正真正銘の冒険者になったのだった。
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