第44話:Aランク素材の解体と作成

 ウラナワ村に戻ってきた俺たちは、まず最初に村長の屋敷へと向かう。

 ヒロさんが回収した素材を報告し、その中でAランク魔獣オーガナイトの素材で俺の武器を作る許可を求めてくれた。


「もちろん、構いませんよ。何なら、SSSランクの魔獣を使って――」

「そ、それは遠慮させていただきます!」

「そうか? もったいないのう」


 も、もったいないって。SSSランク魔獣の素材を一個人に使う方がもったいないだろうに。

 とはいえ、俺はジラギースで支給されていたごく普通の剣よりも格段に性能が高い剣を手に入れる目途がついたことになる。


「では、レベッカ君のところへ行きましょうか」


 報告も終わり、その足で解体へと向かう。

 ちなみに、ヒロさんはここでもデンに跨って移動している。

 村の中なので走ることもなく、ヒロさんも安心して跨れるようだ。

 その姿を見て村の子供たちが羨ましそうに見ているが……これは、後でデンを生贄に捧げる必要がありそうだな。


「お主、何か変な事を考えていないか?」

「何の話だ?」

「……まあ良い」


 いいんだ、良かったよ。

 しばらく歩き、解体屋に到着した俺たちはレベッカさんに声を掛けて事情を説明する。


「やったね! Aランク魔獣の解体なんて、楽しみだよー!」

「嬉しいものなのか?」

「当然! 解体屋としては、やっぱりハイランクの魔獣を解体できてこそ一人前なんだもの!」

「Aランクはハイランクなのか?」

「もちろん! Aランク以上からハイランクって呼ばれてるのよ!」

「そ、そうか。うん、そうなんだな」

「そうなのよー! うふふ、うふふふふ、それに、話によればSランクもいるって話じゃないですかー! 私もついに一人前に……いいえ、これならばテッペンだって狙えるんわよー!」


 ……えっと、レベッカさんって、こういう人だったのか?


「それではレベッカ君。オーガナイトの解体を最初にしてもらってもいいですか? それでレインズ君の新しい剣をバージル君に依頼しますから」

「任せてください、ヒロさん!」

「他の魔獣も数体、置いておきますね。解体が終わったら、追加をお出ししますから声を掛けてください」

「了解しましたー!」


 レベッカさんが凄腕の解体屋だとしても、何十体もの魔獣を一人で解体するとなれば時間が掛かる。あの数ならば、数日掛かる事もあるだろう。

 それだけの時間、死体を放置してしまえば腐ってしまい、素材も使い物にならなくなる。

 魔法鞄の凄いのは、中に入れておけば時間が経過する事なく、中に入れた時のまま保存する事ができるところだ。


「それじゃあ、まずはオーガナイトをちゃちゃっと解体しちゃうから、ちょっとだけ待っててね!」

「ちゃちゃっとって……大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよ。先ほども言いましたが、レベッカ君の腕は素晴らしいですからね」


 レベッカさんの口ぶりだとAランク魔獣は解体した事がないように聞こえたが……まあ、今は信じて待つしかないか。


 ――……そして、1時間後。


「終わったわよ!」

「意外と早かった!」

「意外とは失礼ね! これでもウラナワ村で何千、何万と魔獣を解体してきたんですからね!」

「そ、そんなに解体を!」

「誇張し過ぎですよ、レベッカ君。せいぜい、何百くらいにしておきなさい」


 ……ヒロさんのツッコミが早すぎて、レベッカさんが決めポーズを取ったまま固まってしまった。


「……こ、これがその素材でーす! んじゃあ、私は残りの魔獣を解体するから、バイバーイ!」

「切り替え早いな!?」

「それでは行きましょうか。デン君、お願いできますか?」

「もちろんだ」


 そして、ヒロさんもあっさりしているな。

 しかし、これからは俺もレベッカさんと関わる事が多くなるだろうし、慣れなければいけないな。


 次に向かった先は鍛冶屋である。

 こちらでもヒロさんがバージルに事情を説明し、すぐに快諾してくれた。

 急な申し出にもかかわらず、ありがたい事だ。


「急でもないわよ。挨拶に来た時、言ってくれたじゃない。素材持ち込みで武器を打ってもらえるか、ってね」

「確かに言ったが、あの時は本当に軽い気持ちだったからな。まさか、こうも早くお願いする事になるとは思っていなかったよ」

「あはは! まあ、私もだけどねー。それじゃあ、何か要望とかあるかな?」


 バージルからの質問に、俺はボロボロになった剣を見せながら細かく要望を伝えていく。

 長さや重さ、重心の位置など、なるべくなら使い慣れたものに合わせたかったのだ。

 だが、要望を伝えていくうちにバージルが手を突き出してストップを掛けてきた。


「どうしたんだ?」

「うーん……今の話を聞くと、レインズの剣って自分に合ってなかったんじゃない?」

「どうだろうな。ずっと同じ型の剣を使ってきたから、わからないんだよな」

「そっか。ならさ、私に任せてみない? それで、もし合わなかったら、今度こそレインズの要望通りに打つからさ」


 使い慣れた型を変えるのには少々抵抗があるものの、本職がそう言うのであれば間違いないのかもしれない。

 それに、今回は生まれたばかりのSSSランクだったから勝てたが、長年生きてきたSSSランクと戦う事だってあるかもしれない。

 ……戦力は上げられるときに上げておくべきかな。


「わかった。バージルに任せる」

「ありがとね、レインズ」

「いいや、こちらこそだよ」


 俺はバージルと固く握手を交わし、仕上がりは1週間後だと聞いてから鍛冶屋を後にした。

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