第43話:後始末

 ウラナワ村に戻り簡単な報告を済ませてすぐに寝入った俺は、翌日からも精力的に動き始めていた。

 というのも、討伐したオーガ種をそのままにしていたからだ。

 魔獣は血の匂いに飢えている。死体が転がっていれば、そちらに集まるのも当然の事だ。

 故に、俺たちは死体を集めて回っている。

 同行者はデンと自警団……ではなく、よろず屋のヒロさんだった。


「うおっ! どわあっ! ひえっ!」

「デン。もう少し丁寧に走ったらどうだ?」

「むっ。これでも十分慎重に走っているのだが?」

「これでっ! 慎重にっ! どわあっ! なんですかっ!」


 デンが上下に体を揺らすたびに、ヒロさんの言葉が途切れ途切れになってしまう。

 さて、どうしてヒロさんが同行しているのかというと、特別な道具を持っているからだ。


 ――魔法袋マジックバック


 見た目は小さな袋なのだが、実のところその中にはすでにオーガ種の死体が数十と入っている。

 ジーラギ国でも話を聞いた事はあるものの、目にしたのは初めてだ。


「魔法袋は本当に凄いですね。それ、どれだけの容量が入るんですか?」

「これはっ! 特注品でっ! そのっ! 容量はっ!」

「……すみません。次の場所で降りてからにしましょう」

「は、はいっ!」


 ……本当にすみません、ヒロさん。


 次の場所で死体を回収した後、先ほどの質問にヒロさんが答えてくれた。


「ふぅ……こちらの容量ですが、特注品でウラナワ村の敷地くらいは入れる事ができます」

「……村の敷地くらい、ですか?」

「当時の全財産を全て投げ打って手に入れたんだよ」

「だ、だが、それだけの魔法袋となれば、相当な金額だったでしょう?」

「まあ、一生ものですからね。それに、こうして素材を回収する事もできますから、元は取れましたよ」


 ……元、取れたんだ。


「それにしても、驚いているのは私の方ですよ、レインズ君」

「何に驚いているんですか?」

「この数ですよ。Bランクの魔獣でも高価な素材になるのに、Aランクまで。これだけあれば、ウラナワ村の三年分の資金になると思いますよ」

「さ、三年分ですか!?」


 待て待て、ここはまだいくつかの群れを倒した中の一部だぞ。

 これから向かう最後の場所には、ほとんどがAランクにSランクが少々、そして大物のSSSランクであるハイオーガエンペラーの死体もある。

 一応、ヒロさんにも伝えているが、この調子だと興奮で倒れるんじゃないだろうか。


「それじゃあ、最後の場所に向かいますか?」

「そうですね。……ふぅ、緊張してきましたよ」

「SSSランクにですか?」

「それもありますが……また、デン君に乗るのかと考えると」


 ……えっと、そっちですか?


 そして、到着した先で目にした光景にヒロさんは口を開けたまま固まってしまった。


「…………こ、これが……SSSランクの魔獣! それに、AランクやSランクまで!」

「これがあれば、どれくらいの資金になりそうですか?」

「五年……いや、十年分の資金になりますよ!」

「そうですか。それはよかった」


 これだけでも、俺がウラナワ村にやって来た意味があるというものだ。

 だが、ヒロさんは何やら思案顔を浮かべて考え込んでいる。


「どうしたんですか、ヒロさん?」

「……レインズ君。これは一つの提案なのだが……いや、確定事項になるかもしれませんが」


 提案なのに、確定事項? いったい何事だろうか。


「このSSSランク魔獣の素材を使って、レインズ君の剣を作ってみたらどうですか?」

「……えっ? この素材を使って、ですか?」

「えぇ、そうです。鞘に収まっていますが……その剣、もう使い物にならないのではないですか?」


 確かに、ヒロさんの見立て通りだ。

 俺の剣はすでに刃こぼれもひどく、同程度の武器と打ち合うだけでも数回で折れてしまうだろう。

 しかし、SSSランク素材ともなれば扱える鍛冶師も少なくなる。バージルさんが扱えるのかにもよるが、ここで手に入れられるならありがたいが……。


「……いや、止めておこう」

「そうですか?」

「あぁ。ハイオーガエンペラーの素材は、ウラナワ村に還元したいんだ」

「まあ、私の一存では決められない事ではありますが、皆も納得してくれると思いますよ?」

「本当に大丈夫です」


 剣は別の素材を使ってバージルさんに依頼しよう。

 それこそ、俺が個人的に狩った魔獣の素材を使う方が気楽でいい。


「……全く、レインズ君は」

「えっ? もしかして、また顔に出ていましたか?」

「今回ははっきりと出ていましたよ。でしたら、こちらのAランク魔獣の素材であれば問題ないでしょう。本当ならばSランクを使いたいですが、オーガビショップの素材は剣には向きませんからね」

「いやいや、さすがにそれを貰うのも気が引ける――」

「ダメです。レインズ君への投資も、ウラナワ村には大事なんですからね」


 うーん……この感じだと、ヒロさんには何を言っても聞いてくれない気がする。

 確かに、Aランク魔獣の素材は豊富にあるし、これくらいならいいのかな。


「それじゃあ、お願いします」

「もちろんですよ。バージル君なら問題なく加工してくれるでしょうし、レベッカ君の解体の腕も素晴らしいですから」


 というわけで、俺の新しい剣の目途が立ったのだった。

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