閑話:デン視点

 全く、無茶をする奴だと前々から思っていたが、ここでもその無茶は変わらないようだ。

 我がどれだけ心配しても、言葉を尽くしても、自分の決めた事を覆す事がない。

 こうなると、我は与えられた役割を果たすだけだな。


「しっかしなあ、デン。レインズは本当に大丈夫なのか?」

「安心せよ、ギレイン。我を倒し、従えているレインズがSランク如きに負けるはずがない」


 こうも気安く話し掛けられるのはどうもむず痒いが、レインズとしか会話をしてこなかったからか、新鮮で楽しいものだな。


「Sランクを如きと言うか。……こりゃあ、マジでデンがSSSランクなんじゃねえかって思えてきたぜ」

「む? お主ら、我がSSSランクだという事を信じていないのか?」

「信じたい気持ちはあるが、SSSランクってのは伝説になるような魔獣だぞ? おとぎ話とか、そんなんに出てくるな。レインズの実力は実際に剣を合わせて確認したが、SSSランクの魔獣を倒せるほどじゃあないだろう」


 ふむ、どうやらギレインはレインズの力を見誤っているようじゃ。

 人間相手に戦う場合、魔獣キラーのスキルは発動しない。故に、模擬戦の時の実力を判断材料にするのは間違っているのだ。


「そういえば、ギレインはレインズが魔獣と戦う姿を見ていないんだったな」

「そうだが、俺より少し強い程度だろ? 魔獣キラーのスキルがあったとしても、さすがにSSSランクの魔獣ってのはなぁ。Bランクのオーガやオーガファイターを倒してくれたから、スキルの効果はあるんだろうけどよ」


 魔獣に対する知識があり過ぎるのも、時と場合によるという事か。

 何とかギレインの誤解を解きたいところだが……どうやら、そうもいかなくなったみたいだ。


「来たようだな」

「まあ、そうだろうな」


 姿を見せたのはオーガとオーガファイター。

 ギレインや自警団の面々が武器を構えるが、まだ子供であるギースやミリルは震えている。

 それに、主力であろう四名以外の大人まで硬くなっているではないか。


「これで戦えるのか?」

「正直、厳しいな。だが、ここは死んでも守り切ってみせるぜ」

「そうか……ならば、お主らは全員で一匹のオーガをやるんだ」

「一匹って、残りはどうするんだ?」

「当然、我が喰らってやろう!」


 本当ならば我が全てを喰らっても良いのだが、経験を積ませるという意味では自警団にも戦わせた方が良い。

 面倒ではあるが、上手く調整はしてやろうではないか。


「ガルアアアアッ!」


 オーガファイターの喉笛に噛み付くと、そのまま喰いちぎり次のオーガファイターへと向かう。

 隣に立っていたオーガはそのままとして、自警団に任せる事にする。

 数はそこまで多くはない。おそらく、レインズが群れを中心に殲滅してくれているのであろう。

 ありがたい事だが、我としては少々つまらん結果になってしまうな。

 ウラナワ村の近くに魔獣が生まれ落ちる、といった事も起きんようだし、これではどうも……ん?


「なんじゃ、この気配は?」


 我の気配察知に、謎の気配が引っ掛かった。

 レインズも気づいたようで、そちらに足を向けているようだ。

 これは明らかに魔獣ではない何か。


「……まあ、悪いものではなさそうだし、気にする必要はないか」


 我は気配察知の範囲を狭めてウラナワ村周辺に集中させる。

 どうやら、正面だけではなく側面や後方からも迫ってきているようだな。


「仕方がない、少し走るか!」


 風のように、足音も無く、我は側面へと回り魔獣の首を喰らっていく。そのまま後方へと回り、逆側の側面へ。その時間は1分も掛かっていないだろう。

 中にはAランクと思われる魔獣も交ざっておったが、変わりなく喰らってやった。

 正面に戻ってくると、自警団が傷を負いながらもオーガの討伐を終えたところだった。


「デン!」

「かかかっ! どうやら倒せたようだな!」

「お前、勝手にどっか行くなよな!」

「なんだ、オーガに恐れをなしたのか?」

「違うわ! お前が心配だったんだよ!」

「……我の心配だと?」


 何を言っているのだ。

 我はSSSランクのシルバーフェンリル。

 BランクやAランクの魔獣なんぞに傷を負うことはないのだがな。


「当り前だろう! 俺たちは仲間だ! まあ、お前からしたら頼りない仲間かもしれないが、仲間を心配するのは当然だろうが」


 ……ふむ、仲間か。


「……まあ、悪くない響きだな」

「だろう? だから、勝手に魔獣に突っ込むとか、もう止めろよな」

「その言葉、頭の片隅にでも置いておこう」

「片隅じゃなくて、ど真ん中に置いておけよ!」


 ギレインは本当に愉快な奴だのう。

 レインズとは違うタイプだが、これはこれで面白い。


「ふむ、ギレインよ。次が来たようだぞ?」

「うげえっ! また来たのかよ。レインズは本当に大丈夫なんだろうなあ?」


 レインズはすでに何倍もの数を討伐しているのだが……まあ、今は黙っておくとしよう。

 ボスを討伐して戻って来たらレインズから報告するだろうし、その時に驚く姿を見るのも面白い気がする。


 ――だが、戻ってきた時にSSSランクの魔獣が現れたと聞いた時は、我も驚いたがな!

 くそっ、やはりついていくんだった! 絶対に楽しい殺し合いができただろうに!

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