第42話:ウラナワ村への帰還

 ハイオーガエンペラーを討伐した俺は、落とした首を片手にウラナワ村へ戻ることにした。

 正直、SSSランクの魔獣が現れたなんて知ったら村長やみんながどう思うか……もしかすると村を出るとか言い出しそうだが、事実を隠して後から大きな損害が出てしまうのは見過ごせない。

 全ての事実を伝えて、判断は村長やみんなに任せる事にしよう。


「しかし、ハイオーガエンペラーを倒してからはオーガが散り散りになってしまったな。デンや自警団のみんなは大丈夫だろうか」


 そう考えると、俺は自然と早足になっていた。


 残党を狩りながら進んでいき、ようやくウラナワ村の防護柵が見えてきた時、俺の心配が杞憂だったのだと安堵する。


「みんな無事そうだな、よかった」


 俺があちらの様子を見ながら近づいていくと、あちらからも俺が戻ってきた事に気づいたようだ。


「む? おぉ、戻ったか、レインズ」

「ただいま、デン。どうやら問題なかったみたいだな」

「おっ! 戻ったのか、レインズ!」

「レインズさん、よく戻ってきてくれました!」

「心配していたんですよ、レインズさん」

「お力になれず、申し訳ありません」


 ギレインにメリースさん、クランキーさんにカリーさんも声を掛けてくれる。


「おぉぉ、よくぞご無事で」

「村長もウラナワ村も、ご無事で何よりです。ですが、どうして村長が防衛戦に?」

「ほほほ。魔法を放つだけなら、老体でも戦えるからのう。これでもスキル、ハイファイア持ちじゃからな」


 笑いながらそう口にしてくれたが、魔法を使うにも体力が必要だ。

 相当無茶をしたんだろうが、だからこそのオーガの死体なのだろう。

 そう、みんな無事だったのだが、オーガがやってこなかったわけではない。

 防護柵の外には多くの死体が転がっており、みんなも多少なり傷を負っている。

 無事だと言ったのは、生きているという事。それが、魔獣と戦うという事なのだ。


「それで、レインズ。そ奴が今回のボスだったのか?」


 異様な雰囲気に気づいたのか、デンは俺が持ってきたハイオーガエンペラーの首に目を向けながら口を開く。


「あぁ。色々な事が重なってしまって、こいつが生まれた。その……SSSランクの魔獣だ」

「んなあっ!?」

「S、SSSランクの魔獣ですと!?」


 ギレインと村長が裏声になってまで驚きの声を漏らす。

 まあ、それも致し方ないだろう。俺だって驚いてしまったのだから。


「詳しい話は中でしませんか? 俺も少々、疲れてしまったので」

「……あ、あぁ。それも、そうだな」

「SSSランクの魔獣討伐ですか。それを少々疲れたで済ませられるとは……いやはや、魔獣キラーとは本当に規格外のスキルですなぁ」


 俺は軽く笑う事で返事とし、そのまま視線をウラナワ村の門へ向けた。

 すると、そこには見慣れた女性が……俺をここまで連れてきてくれた恩人が、こちらを見ていた。


「レインズさん……レインズさん!」

「ただいま、リムル」


 俺が声を掛けると、リムルの瞳からは大粒の涙が溢れ出した。

 そのままこちらに駆け出し、抱きしめてくる。


「レインズさん! 無事でよかった……本当に、よかったです!」

「おいおい。返り血も浴びてるし、臭いだろう?」

「構いません! レインズさんが生きて帰ってきてくれたんです。……とても、温かいです」


 ……うーん、こういう場合、どうするのが正解なんだろうか。

 そんな事を考えながら、俺の両手はリムルの横で右往左往している。


「……温かいか?」

「はい、とても」


 結局、俺は左手を下ろして右手でリムルの頭を撫でた。


「意気地なしめ」

「意気地なしだわ」

「これはさすがにねぇ」

「普通は抱きしめるわよ」

「全く、これだからレインズは」


 ……てめえら、全部聞こえているからな? 意気地なしって言ったのは、ギレインとメリースさんだろう、こらっ!


「中に戻ろう。もう夜だ、冷えてしまうぞ」

「はい。みんなで戻りましょう!」


 胸に埋めていた顔を上げると、涙を拭ったその表情はとても輝かしい笑みを浮かべていた。

 俺はその笑みに癒され、ハイオーガエンペラーとの戦闘で疲れた体が一気に癒された気がする。


「……そうか。これが、人と人とのつながり、温もりなのかもな」


 ジラギースにいた頃には感じたことのない感覚に、俺は自然と笑みを浮かべていたのだった。

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