第41話:魔獣討伐⑤
だが、目の前にはそのあり得ないことが起きてしまった。
デンと戦った時にも感じたが、やはりSSSランクの魔獣を前にすると冷や汗が噴き出してくる。
魔獣キラーの能力を全開にしてようやく勝てたのだが、こいつには勝てるだろうか。
「こうなる事がわかっていたら、デンを連れてきたんだがなぁ」
SSSランク同士の魔獣がぶつかったらどうなるのか、なんて事を考えたことがある。
まあ、デンが殺されたら嫌だから一匹で戦わせたりしないけどな。
『……さあ、殺し合おうぞ!』
「こいつ、知恵を持つ魔獣か!」
地面を吹き飛ばしながら間合いを詰めてきたハイオーガエンペラーの拳が目の前に迫る。
首を捻り間一髪で回避するが、周囲の空気が刃となり頬が裂けて血が舞う。
伸びきった腕を両断しようと剣を逆手に持って斬り上げたが、素早く引き戻されて空を切る。
直後には回し蹴りがこめかみに迫り、大きく後方へ飛び退く。
「うおっ!?」
回し蹴りにより発生した真空波が頭上を通り過ぎると、後方の大木がまとめて切り倒された。
「……こいつはマズいなぁ」
デンの時と今では、完全の状況が違い過ぎる。……まあ、違うと言ってもこいつの違いだけなんだが。
「剣、耐えられるかなぁ」
デンの時は魔獣の強い気配を感じたために変えの剣を持って挑み、四本もの剣を無駄にして、五本目で何とか勝利を手にした。
だが、今は手にしている剣が一本のみ。こいつが壊れれば、俺は徒手空拳でハイオーガエンペラーを倒さなければならなくなる。
無理……ではないが、深手を負うのは間違いないだろう。
「……まあ、やれるところまでやってみるか」
ウラナワ村に戻ったら、丈夫な剣を作ってもらわないといけないな。
『ガハハハハッ! なかなか楽しめそうだな、人間!』
「こっちは楽しくないけどな!」
鋭い拳が左右から打ち出され、俺は回避に専念しつつカウンターを狙う。
だが、それは相手もお見通しのようでカウンターを警戒している。
しかし、警戒しているという事はこちらの攻撃が効く可能性が高いという事でもあった。
『なんだ、攻撃はしてこないのか!』
「それをさせないようにしているのは、そっちだろうが!」
『ならばさっさと死んでしまえ! 我は空腹だ、食事を堪能したいからなあ!』
「食事、だと!」
『その通りだ! すでにわかっているぞ。この近くに、人間の里があるな! そこの者を一人残らず喰らってやる!』
――カチン。
一人残らずか。
ウラナワ村の人間を、リムルを喰らうと言ったのか、こいつは!
「……いいだろう」
『ガハハハハッ! ようやく本気で相手をするつもりになった――か?』
――ボトリ。
ハイオーガエンペラーが疑問の声を漏らしたのと同時に、何かが地面に転がり落ちる。
それがハイオーガエンペラーの左腕だと気づいたのは、ゆっくりと視線をそちらに向けた時だった。
『…………な……なな、何が起きた! 何が起きたんだああああぁぁっ!?』
恐怖の叫びをあげながら、俺から距離を取るために大きく飛び退いたハイオーガエンペラー。
だが、ここが好機だと見た俺は逃がすまいと間合いを詰める。
『ファ、ファイアウォール!』
おいおい、ここまでやっておいて逃げの一手しかないのかよ。
俺は炎の壁を切り裂いて前に出るが、そこには再び炎の壁が。
「面倒だな……バードスラッシュ!」
ハイオーガエンペラーの気配がある場所にバードスラッシュを放ち、設置されていた炎の壁を全て破壊する。
それと同時に全力で駆け出すと、俺は視界にハイオーガエンペラーを捉えた。
「これで、終わりだ!」
『掛ったな?』
「何が――!?」
こいつ、俺を誘っていやがったか!
『串刺しになるがよい――エアランスプリズン!』
誘い込まれた先で待ち受けていたのは、風の牢獄だった。
「ちいっ! さすがにこれは、マズいか!」
風の牢獄の中では、絶えず風の槍が突き出されては消えていき、俺に襲い掛かってくる。
逃げ場を奪われては回避するだけでは足りず、剣で風の槍を受け止めなければならない。
耐久力の問題もあるし、早めにエアランスプリズンを壊さないとな。
『ガハハハハッ! これで、貴様も終わりだな!』
しかし、こいつは本当にSSSランクの魔獣なんだろうか。
ヤバくなったら逃げ出し、勝てそうだと思えば強気になる。
まあ、知恵が回る時点でハイランクなのは間違いないし、魔獣キラーでもそう出ているからな。
実際に当たれば一撃で死ぬだろうし、魔獣キラーがなければ死んでいただろうけど……なんだか、デンとはあまりにも違い過ぎる。
「……連撃」
――キンッ!
鋭く振り抜かれた剣閃は一つのように見えたかもしれないが、そうではない。
言葉通り、一振りに見えた剣閃の中には四度の剣閃が組み込まれている。
風の槍を打ち砕き、両断し、そのまま風の牢獄をも二つに分かつ。
その視界にはハイオーガエンペラーを捉えていたのだが……なんて情けない顔をしているんだ。
『……まさか……そんな事が…………あり得ない!』
あり得ない事を目撃したのはお前だけじゃないんだがな。
だが、これで終わりだ。
「まあまあ、面倒な相手だったよ」
『やっと進化したのだ、それなのにいいいい――ゲバガッ!?』
悲鳴にも似た声が漏れ出たのと同時に、ハイオーガエンペラーの首が宙を舞った。
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