第40話:魔獣討伐④

 オーガロードだが、少々厄介なスキルを持っている。

 俺やデンにはあまり関係ないが、自警団にとっては死活問題になりかねないな。


「だからこそ、ここで死んでもらうぞ!」


 俺は目の前に立ちはだかるオーガファイターめがけて剣を振り抜く。


 ――ザンッ!


「……ん?」

『グルガアアアアッ! ……グルグググ、ゴガアッ!』


 先ほどまでは一太刀で仕留められたオーガファイターだが、今回は左腕を半ばから両断するに止まる。

 俺としては今までと同様に剣を振るったつもりなのだが……ふむ、あのスキルの影響か。


「数の暴力、ここに極まれりだな。だが――ふっ!」

『ゲガアッ!』


 一太刀で仕留められなければ、二の太刀、三の太刀を振るえばいい。

 だが、倍の時間が掛かってしまうので面倒ではある。


「群れが集まってくれているのは助かるが――ちいっ!」


 邪魔な肉壁を排除しながら前進していたが、ここでも魔法の弾幕が降り注ぐ。

 数も大きさも桁違い。……全く、これは俺にも面倒なスキルだったか。


「オーガロードのスキル――オーガの加護」


 支配下のオーガに対して能力向上の効果を与えるオーガの加護は、支配者の近くにいればいる程にその効果を発揮する。

 だからこそ、先ほどのオーガファイターは動きが良く一太刀で仕留められず、魔法の規模も桁違いになっていた。


「だが、この程度なら!」


 多少衣類が燃えたり凍ったりするのは想定内。

 後はこの肉壁を排除できれば――!?


『ウウゥゥオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

「う、煩いなあ! どんだけでかい雄叫びなんだよ!」


 周囲の木々が揺れて落ち、地面が揺れて小石が跳ねる。

 顔をしかめながら悪態をついていると、オーガたちの雰囲気が一変する。

 瞳が真っ赤に血走り、肉体が隆起し、表情が狂気に染まる。


「……おいおい、マジかよ!」


 BランクやAランクといった魔獣たちが、ランクを一つ上げて進化を始めたのだ。

 ただのオーガがハイオーガに、オーガファイターがオーガナイトに、そしてオーガウィザードがオーガビショップになる。

 それぞれハイオーガとオーガナイトがAランクに、オーガビショップがSランクだ。


「全く、オーガの加護にこんな使い方まであったとはな」


 これだけハイランクの魔獣が数を揃えたのなら、確かに数の暴力が成り立つな。


「……仕方ない。ならばここからは――本気で相手をさせてもらうぞ!」


 オーガロードがスキルの本領を発揮させたのなら、こちらも魔獣キラーを遺憾なく発揮させてもらおうか。

 Aランクのハイオーガを一振りで縦の両断し、武器を持つオーガナイトにはその武器ごと斬り捨てる。

 遠くにいるオーガビショップに対してはバードスラッシュを放つが、やはりSランクを守るためだろうか、Aランクの魔獣が肉壁になる。

 しかし、バードスラッシュの威力も魔獣キラーのおかげで底上げされており、肉壁ごとオーガビショップを真っ二つにした。


「さーて、ここからが本番だ! 一番後ろでふんぞり返っていられるのも今の内……ん?」


 待て、おかしくないか?

 BランクがAランクに進化するのは、規格外だが可能性としては納得できる。

 だが、AランクがSランクに進化するのはおかしいだろう。


「……どうして、Sランクの魔獣が同じSランクに魔獣を進化させる事ができるんだ?」


 そこで俺は気がついた。

 あり得ないと思っていたが、目の前で起きてしまった事を信じられない程、俺は堅物ではない。

 だが、理解して受け入れるまでには多少の時間が必要だった。


「自分のスキルで、自分すらも進化させたのかよ!」

『ゲギャギャギャギャ! コロス……コロスコロス、コロスコロスコロスウウウウ!』

「人語を理解する魔獣……こいつ、マジかよ!!」


 オーガロードが――SSランク魔獣、オーガキングに進化していやがる!

 だが、進化した事でスキルにも変化が起きたようだ。

 オーガの加護が消えたのはありがたい事だが、その代わりにオーガキングを強化するスキルに進化していた。


「スキル、キングの加護。配下が死ぬたびに、自らの能力が向上する」


 オーガキングに進化したのはいつだったのか。

 雄叫びをあげたあの時だろうか。もしそうであれば、俺は結構な数の配下を殺した事になる。

 となれば必然的に――


『グルオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアッ! サラニ、ワレハ、ツヨクウウウウ!』


 ……あぁぁ、やっぱりか。

 SSランクに進化してから数分しか経っていないにもかかわらず、俺が大量に配下を殺した事で一気に進化が進みやがった。

 SSランクからの進化となれば、当然次のランクになるって事だよなぁ。


『ウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオッ! ワレハ、オーガを統べる魔獣!』

「ハイオーガエンペラー!」


 おいおい、まさかサクラハナ国に来て数日でSSSランクの魔獣と相対するとか、あり得ないだろうが!

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