第37話:魔獣討伐①

 翌日となり、俺はウラナワ村の門にやって来た。

 村長とレジーナさんは屋敷で見送ってもらったが、リムルや自警団の面々は門の前に集まっていた。


「すまねえなあ、レインズ。お前に全てを背負わせちまってよ」

「俺が言い出した事ですから、気にしないでください」

「……帰って来たら、ギースだけじゃなくて俺の事も鍛えてくれ」

「ギレイン?」


 おいおい、別に今生の別れってわけでもないし、そんな辛気臭い顔をされても困るんだがなぁ。


「次に同じような事が起きたら、お前だけじゃなくて俺も役に立ちたいからな!」

「それじゃあ、しっかりと訓練内容を考えておかないといけないな」

「おいおい、ギレイン。君のせいでレインズ君が余計な事を考えてしまっているじゃないか」

「そうよ! こういうのは、帰ってきてからお願いしなさい!」

「まあ、そこがギレインさんなんですけどね」


 ギレインの言葉にクランキーさん、メリースさん、カリーさんの順番で指摘していく。


「う、煩いな! 一つでも約束があったら、戻って来たくなるだろうが!」

「そういうのは、とっくにしているわよ。ねえ、レインズさん!」


 メリースさんはそう口にしながら視線をリムルの方へ向けた。

 間違ってはいないが、この場で言う事でもないだろう。俺はいいのだが、リムルが恥ずかしそうじゃないか。


「というか、俺は死ぬ気なんてこれっぽっちもないですからね? 戻ってくるのは当然ですから」

「それもそうだね」

「気をつけてくださいね、レインズさん」


 俺がそう口にすると、クランキーさんとカリーさんが微笑みながら激励してくれた。

 ギースやミリル、他の自警団からも声を掛けられた後、最後はリムルと顔を合わせる。


「あの、レインズさん。昨日は、その……」

「……俺は、リムルのご両親のようにはならないよ」


 俺の言葉にリムルは驚いた表情で顔を上げた。


「村長から聞いたんだ。リムルのご両親が、魔獣討伐に出て亡くなった事を」

「そう、でしたか。……すみません、昨日は感情的になってしまって。でも、どうしてもレインズさんが父や母と重なってしまったんです。それで……」


 再び口を噤んでしまったリムルを見て、俺は自然とその頭を撫でていた。


「……レインズ、さん?」

「昨日も言ったと思うが、俺は絶対に帰ってくる。これは口約束だが、絶対に違える事のない確実なものだ」

「信じて、いいんですよね?」

「もちろんだ。だから、リムルは安心してウラナワ村で待っていてくれ」


 手を頭から離すと、先ほどまで姿を隠していたデンがのっそりと森の奥から姿を現した。


「今のところは人型魔獣の姿はない。だが、昨日よりも奥の方には結構な数の気配が感じられる」

「そうか……まあ、間引きの延長線上と考えて斬り捨ててくるよ」

「レインズ。危ないと思ったら、躊躇なく引くんだぞ? 我は、いつでも駆けつけてやるからな?」

「そんな状況は願い下げだな。俺の心配よりも、お前はお前とウラナワ村の心配をしてくれ」


 昨日の夜は触れる事ができなかった美しい毛並みを一撫でした俺は、デンの横を通り過ぎて奥へと足を進めて行く。


「待っていますからね! レインズさん!」


 リムルの声に、俺は右手を軽く上げて返答とした。


 ◆◆◆◆


 ウラナワ村を出てから30分程は魔獣の気配を全く感じなかったが、デンの言った通りでオーガやオーガファイターと戦った場所よりもさらに奥からは、無数の気配を感じ取る事ができた。

 その数はあまりにも多く、三桁になってからは数えるのを止めてしまった。

 それだけの数を一人で倒した事は過去にもなかったなと思い返しつつも、これだけの数を倒す事ができれば多少なり強くなれるのではないかとも考えている。


「数の暴力か。だが、SSSランクのデンと比べたら、そう恐ろしいものではないだろう」


 楽観的に考えているのかもしれないが、それには一つの理由がある。

 圧倒的実力を有する一個体に対して、数はそれほど問題にならない。

 これが、最終的にいきついた俺の答えだ。

 俺がその圧倒的実力を有しているかと問われると答えは否なのだが、デンはまさしく圧倒的実力を有している一個体の一匹である。

 魔獣ではあるものの知恵があり、人間のように考えて戦う事ができるデンは、従えている俺以外から見れば脅威以外の何者でもないだろう。

 正直な話、討伐を俺ではなくデンに任せるだけでも問題はなかったはずだ。

 ならば何故、俺が一人で向かうと宣言したのかといえば、やはり認めてもらいたいという気持ちが強かったのかもしれない。

 ウラナワ村のみんなは認めていると口にしてくれたが、それでもまだ実力を示したわけではない。

 では、まだまだ実力の片鱗すら見せられていないのだから。


「リムルのためにも、みんなのためにも、速攻で片付けてくるか」


 自分にそう言い聞かせた俺は、気配が固まっている場所へと全速力で駆け出した。

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