第36話:リムルの心配と過去
「それでは、レインズ殿。明日はどうかよろしくお願いいたします」
その後、渋々といった感じで許可を貰った俺は、明日に備えてゆっくり休ませてもらう事になった。
デンは影から出てきて自警団と話し合いを続けるのだとか。
自警団本部を出ると、そこにはもう見慣れてしまった女性と目が合った。
「レインズさん!」
「どうしたんだ、リムル?」
外はすでに暗く、かがり火で村の中を照らしている。
女性が一人で出歩くには遅い時間でもあり、俺はどうしてここにいるのか不思議でならなかった。
「その、会議はどうなりましたか?」
なるほど、会議の内容が気になったのか。
「大丈夫だ、問題はない」
「……本当ですか?」
「あぁ。ウラナワ村の防衛には自警団とデンがついてくれる。俺は人型魔獣を率いているだろうボスを倒しに森の中へ――」
「全然大丈夫じゃないですよ!」
真正面から特大の大声を張り上げられ、俺は面食らってしまう。
「…………えっと、何がどう大丈夫じゃないんだ? 村長も認めてくれたし、ギレインだって渋々だけど認めてくれたぞ?」
「そういう意味じゃないんですよ! そんな危険なところに一人でなんて……そうだ、デンは連れて行かないんですか?」
「あぁ。ここを守ってもらわないといけないからな」
「そんな……」
うーん、どうしてここまで心配されるんだろうか。
確かに自警団の実力からすると強敵になるんだが、俺にとってはたかがBランクやAランク。Sランクとなれば多少手ごたえがあるかなくらいなんだけど。
「……大丈夫。ちゃんと帰ってくるから」
「……私は、レインズさんが心配です」
「ん? 会議の内容が気になっていたんじゃないのか?」
「ち、違いますよ! レインズさんが心配で待っていたんですから! ……はっ!」
どうやら、俺はリムルに相当心配を掛けさせてしまったみたいだ。
だが、そこで顔を赤くするのはどうなんだろうか。
「本当に大丈夫だから。言ってなかったが、デンは元々SSSランクの魔獣だったんだぞ? そいつを倒して従魔にしている俺が、BランクやAランクに負けるはずがないさ」
「……嘘です」
「いや、本当だから」
「絶対に嘘です!」
……いやいや、マジで本当だからな!
「レインズさんは確かに強いですけど、そんな嘘をつくとは思いませんでした!」
「ちょっと落ち着いてくれ、リムル。デンの話は本当だから、マジだから!」
「SSSランクが伝説の魔獣だって事くらい、私でも知っています! せめてSランクとかにしておけば、私も少し考えてから信じられたんですよ!」
あまりに強い魔獣というのは、信じてもらえない存在なのか。
……ん? ってことは、村長やギレインたちも実は疑っていたのかも?
「と、とにかく! 俺は本当に大丈夫! 魔獣キラーのスキルがあるんだから、マジで信じてくれよ、リムル」
「…………さい」
「ん?」
「絶対に生きて帰ってきてください! 大丈夫だって言って、帰ってこなかった人は大勢いるんですからね!」
そして、リムルは走り去ってしまった。
どうしてあそこまで怒り、怒鳴っていたのか。
俺が困惑したままリムルが消えていった先を見つめていると、声が聞こえたのか村長が自警団本部から出てきてくれた。
「やれやれ、やはりリムルでしたか」
「はい。どうやら俺は、心配されているようです」
「当然ですな。我々でさえ心配しているのですから、リムルならばなおの事」
「どうしてリムルならなおの事なんですか?」
俺の質問に、村長は浮かなそうな表情を浮かべると、少し間をおいてから口を開いた。
「リムルの両親は、ウラナワ村を守るために魔獣に殺されたのです。その時にも、絶対に戻るから大丈夫だと言って討伐に向かいました。その結果が、死だったのです」
……そういう過去があったのか。
それならば、リムルの反応にも頷ける。
「ですからどうか、レインズ殿は無事に戻ってきてくだされ」
「元々死ぬつもり何てありませんが、なるべく早く戻ってくる必要が出てきましたね」
さっさとボスを倒して戻ってこれば、その分リムルが心配する時間も少なくできるというものだ。
「……そういえば、村長たちは信じてくれたんですよね?」
「レインズ殿の事ですかな?」
「いえ、デンがSSSランクの魔獣だった事です」
「あぁ、あの話ですか……まあ、程々にという感じですかな」
……どうやら、伝説すぎて信じてもらえていなかったようだ。
デン、お前の存在って、どうなってるんだ?
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