第38話:魔獣討伐②

 村長の推測通り、群れを成していたのは人型魔獣だった。

 昨日倒したオーガやオーガファイターだけではなく、オーガナイトやヘビーオーガなども確認できる。

 ちなみに、オーガナイトとヘビーオーガはAランクの魔獣だ。

 これだけAランクが揃っていると、この群れを率いている魔獣がいそうなものだが……あぁ、あいつか。


『……グルア?』


 群れの最後方で鋭い視線をこちらに向けている奴は、オーガウィザードだ。

 こいつもAランクではあるものの、同じAランクでも実力は中の上といったあたりか。

 魔法を使う上に、魔獣の本能を抑え込める程度の知恵も持つ。

 この程度の群れを従えるには、もってこいの魔獣って事か。


「バードスラッシュ!」

『グルギャギャギャ!』


 オーガウィザードに向けてバードスラッシュを放ったものの、周囲の魔獣が肉壁となり届かない。

 肉壁になった魔獣は真っ二つになったのだが、オーガウィザードに反撃の時間を与えてしまった。

 顕現したのは俺の倍近くの大きさを誇る氷の塊が三つ。

 逃げ場を限定するかのように他の魔獣が周囲を囲んで一定の距離を保っている。


『ギャギャギャギャギャ!』


 あの声は、明らかに俺を嘲笑っていやがるな。

 まあ、オーガたちから見れば、俺はたった一人でのこのこと現れた獲物くらいにしか思っていないだろう。

 すでに結構な数を倒しているにしても、オーガウィザードが健在であれば考えは変わらないはずだ。


「……目障りだな」


 多少の苛立ちを覚えつつも、俺はオーガウィザードに魔獣の本能を呼び覚まさせるために、あえて魔法を受ける事にした。


「魔獣が人間を下に見てるんじゃないぞ? いいぜ、来いよ」

『ギャギャ? ……グルギャギャギャアアアア!』


 挑発が効いたのか、声の質が変わり怒りの感情が伝わってくる。

 そして、三つの氷の塊が同時に撃ち出された。

 一撃でも直撃すれば即死、掠っただけでも大きな負傷につながるかもしれない。

 避けるだけなら簡単だが、それではオーガウィザードの本能を呼び覚ますにはまだ足りないかもしれない。

 ならばどうするか……答えは決まっている。


「斬らせてもらうぞ!」


 魔法を斬るなんてどうかしていると、結構前にエリカに言われた記憶が蘇ってくる。

 まあ、普通は撃たせる前に殺すか、撃たせてしまったら回避に専念するものだからな。

 だからではないが、俺は気づけば思い出し笑いを浮かべていた。


 ――キンッ!


 そして、笑いながら三つの氷の塊をほとんど同時に斬り捨ててしまったものだから、オーガウィザードの心に相当な恐怖を植え付けてしまったようだ。


『グギャゴゴ……ゴ、ゴギュルガガガアアアアアアアアッ!』


 号令一下、周囲の魔獣が一斉に飛び掛かってきた。

 正面の魔獣を袈裟斬りからの斬り上げで五匹を仕留める。

 返す剣で後方の魔獣を横薙いで三匹を上下に分かつ。

 右側には全体重を乗せた刺突を前進しながら突き刺して三匹を絶命。

 力任せに斬り上げてそのまま左側へ振り下ろし一匹を両断。

 後からは数える事が面倒くさくなり、近い魔獣から順序よく斬り捨てていく。

 時折感じる殺気には視線で威圧を放つが、その相手はオーガウィザードである。

 魔法を放つ隙を窺っているのだろうが、これだけ殺気が漏れ出ていたら隠れている意味がない。

 これがAランクでも中の上の実力かと、内心でため息をつく。


「……この場で得られる事は、なさそうだな」


 俺はオーガウィザードに見切りをつけると、さらに剣速を加速させて魔獣の斬り刻んでいく。

 勢い余って細切れにしてしまった個体には申し訳ない気すらしてしまう。

 だが、そのおかげもあって魔獣の数は目に見えて減少し、すでに三桁を切っている。


『グギャギャ……ギギギギギッ!』


 おいおい、ここまで来て逃げるつもりかよ。

 ここでオーガウィザードを逃がしてしまえば、ボスのところで再び相まみえるか、別のルートから森を抜けてしまうかもしれない。

 そうなると、ウラナワ村を危険に晒す事になる。


「逃がすかよ!」


 周囲の魔獣を一旦は無視し、一直線にオーガウィザードを目指して駆け抜ける。

 数が減ってしまえば正面突破も容易いものだな。

 10秒と掛けずオーガウィザードに追いつくと、その背中めがけて袈裟斬りを放った。


『グゲギャガガアアアアッ! ……アァァ……ァァ…………』


 オーガウィザードが倒された事で、残された魔獣たちの動きから統率力が欠けていく。

 こうなると討伐も容易であり、さほど時間を掛けずに殲滅する事ができた。


「さて、次の群れは……こっちだな」


 この周囲には群れが三つほど存在している。その中に当たりが存在している事を願いながら、一番近い群れへと駆け出したのだった。

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