第23話:鍛冶屋のバージル

 何故か大股でドスドスと歩いているリムルに困惑しているのだが、次に向かう先は俺としても楽しみな場所だ。

 解体屋を後にする直前、鍛冶屋に向かうと言っていたからな。

 この剣も悪い物ではないが、さすがに5年以上も同じ剣を使っていては、どれだけ手入れをしていてもガタはきてしまう。

 素材持ち込みで、何とか格安で新しい剣を作ってくれないか頼みたい気持ちもあるのだ。


「こ、ここが、鍛冶屋、です!」

「……どうしてカミカミなんだ?」

「な、なんでも、ありません!」


 ……まあ、大丈夫だろう。単に、気合いを入れているだけだろうしな。


 ――カーン、カーン。


 そんな事を考えていると、建物の裏手から金属を打つ甲高い音が聞こえてきた。


「バージルさん、もう作業に入ってるんだ」

「鍛冶屋の店主か?」

「はい! 腕利きの鍛冶師で、レインズさんと同い年なんですよ!」

「ほう、同い年か。なら、何かあった時には色々と頼みやすいな」


 これなら剣を打ってもらうのも期待できる……って、どうしたんだ、リムル。


「……どうして睨んでるんだ?」

「に、睨んでませんよ! 私は別に、睨んでなんかいませんからね!」

「いや、今のは絶対に睨んでいただろう?」

「睨んでませんってば! もう、さっさと裏手に行きましょう!」


 そう口にしたリムルは、さらに大股になってさっさと歩いていってしまった。


『全く。お主は本当に鈍感だのう』

「いや、意味がわからん。俺は鍛冶師に剣を打ってもらいたいだけだ。同い年の男同士なら、頼みやすいと思っていただけなんだがなぁ」

『男同士か……はぁ』


 デンの反応に俺は首を傾げながら、リムルが曲がった先へと進んでいく。

 すると、鍛冶屋の裏手には小さな小屋があり、金属を打つ音はそちらから聞こえていた。


「工房、なんだろうな」


 そのまま工房の方へ歩いていくと、入口のところでリムルが立ち止まり中を見つめている。

 リムルの後ろに立って俺も中を覗き込んでみると……ほほう、これは凄いなぁ。


「さすがは、腕利きの鍛冶師だな」

「そうですよね! ここにある作品は全部、バージルさんが作った物なんですよ!」


 剣に槍、斧に鎌。

 武器だけではなく、普段使いできる刃物まで、多種多様な物がそこには並べられていた。

 そんな作品が並んでいるよりも更に奥に目を向けると、一人の鍛冶師が何度も槌を振るい、金属を打っている姿があった。


「ん? ……なあ、リムル」

「どうしたんですか、レインズさん?」

「……鍛冶師って、男じゃないのか?」

「えっ? バージルさんは女性ですよ?」


 …………それは、予想外だった。


「そうか、女性なのか」

「そうですけど……あれ? もしかして、男性だと思っていたんですか?」

「まあ、そうだな」


 うーん、これは俺の固定観念から来る弊害だろう。

 ジーラギ国での鍛冶師は、力が必要な仕事というだけで男性しか認められていなかったからな。

 女性であっても、技術を持って素晴らしい作品を作る事ができるというのに。

 ……そう考えると、ジーラギ国って固定観念に凝り固まり過ぎた国とも言えるんじゃないだろうか。


「……まあ、今の俺が考える必要はないか」

「どうかしましたか?」

「いや、なんでもないよ」


 俺たちはバージルさんの作業が終わるまで、しばらく入口からその仕事ぶりを眺めている事にした。


「――……ふぅー。あれ?」


 どれほどそうしていただろうか。

 手を止めたバージルさんが額の汗を拭い一息ついたタイミングで、入口に立っている俺たちに気づいたようだ。

 入口から差し込む光を浴びた金髪が、美しく輝いている。


「おはようございます、バージルさん!」

「おはよう、リムル。それに、レインズさんだっけ?」

「はい。それと、俺の事はレインズでいいですよ。リムルが言ってましたが、同い年らしいので」

「あれ、そうなの?」


 バージルさんは椅子から立ち上がるときょとんとした表情でリムルを見る。


「リムルー? 女性の年齢を簡単にバラしちゃあ、ダメじゃないかなー?」

「ご、ごめんなさい、バージルさん!」

「……あはは! 冗談よ、じょーだん!」


 快活な笑みを浮かべながら、バージルさんがリムルの肩を叩いている。


「まあ、バレちゃってるならいいか。それなら、レインズも私の事はバージルでいいよ」

「そうですか?」

「同い年なんだから、気兼ねなく話し掛けてちょうだい。そうそう、欲しい物とかあったら言ってね。格安で売ってあげるわよ?」

「助かる。なら、素材持ち込みで武器を打ってもらう事もできるのか?」

「そりゃあ、もちろん。だって私、鍛冶師だからね」


 バージルはそう口にしながら、右手に持った槌を肩に担いだ。


「わ、私にもできる事があったら、なんでも言ってくださいね、レインズさん!」

「え? あ、はぁ」


 突然の言葉に、俺はどう答えたらいいのかわからず、変な返事になってしまった。


「それでは、次に向かいましょう!」

「あ、あぁ。それじゃあ、バージル。何かお願いする事があったら頼む」

「はいよ! 待ってるわね!」


 ……うん、これは良い出会いになった気がする。

 鍛冶師のバージル、仲良くしていて損はないな。

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