第22話:解体屋のレベッカ
よろず屋を後にした俺たちは、次に生臭い一画へと向かう。
「よし、ここからは頑張らないと!」
「ん? どうしたんだ、リムル?」
「な、なんでもありません! 行きましょう!」
何やら気合いを入れているようだが、そうしないといけない場所なのだろうか。
まあ、生臭さの中に血の匂いも交ざっているから、危険な場所なのかもしれない。
俺も気合いを入れてリムルが入っていった建物の中に入っていく。
「いらっしゃーい! ……あれ、リムルちゃんじゃない!」
「久しぶりだね、レベッカさん!」
「失礼しま――どわあっ!?」
現れた女性は頬に血を付けており、その右手には包丁が握られている。
……あぁ、あれか。
「ここは解体屋なのか?」
「ん? ……あーっ! あなた、移住者のレインズさん!」
「そうなんだが……まずは包丁を置いてくれ。それと、顏に付いた血を拭ってくれ」
その姿のままで包丁をブンブンと振られては、さすがに狂気を覚えてしまうぞ。
「あははー、ごめんねー。私はレベッカ。レインズさんが言った通り、解体屋だよ!」
「そっちにあるのは、魔獣の肉か?」
「そうそう! この辺りでは珍しくないニビって魔獣の肉」
「ニビ?」
「尻尾が二本生えた、キツネみたいな見た目の魔獣だよ。似た魔獣は結構いるんだけど、尻尾の数で個体の実力を測る事ができるんだ。一番強い魔獣でキュウビってのがいるかな」
「ほほう。この国の魔獣はわからない事が多いから、興味があるな」
「そう? なら、もっと詳しく話ができるよう、仕事を終わらせてお茶でもしながら――」
「ダメですからね!」
――バンッ!
……えっと、どうしてリムルがそこまで怒っているんだろうか?
俺としては、ここで魔獣を狩って生計を立てるなら魔獣に詳しくなりたいのだが。
「私も立ち会いますので、その時にお願いします!」
「いや、さすがに俺の都合にリムルを付き合わせるわけには――」
「いいえ! 私が一緒にいるべきなんです!」
「……いやいや、意味がわからないんだが!」
そもそも、リムルは回復魔法のスキルを持っているのだから、直接魔獣と戦うわけではない。俺とは事情が違い過ぎる。
「……はっは~ん、そういう事ですか、リムルちゃ~ん」
「な、なんですか、レベッカさん?」
「ちょいと、こっちに来てくれませんかね~」
「あの、えっと!」
「レインズさんは、少しだけ待っててくださいね~?」
「あ、あぁ、わかった」
そう口にして、レベッカさんはリムルを奥の部屋に連れて行ってしまった。
「…………俺、どうしたらいいんだ?」
『ふむ、であれば、少し店の様子を散策してみたらどうだ? あの肉だが、先ほどの女主人はなかなかに腕の良い解体師のようだぞ?』
「そうなのか?」
デンが言うなら、そうしておくか。
俺は並べられている解体済みの肉に目を向ける。
筋も取り除かれており、きれいな赤みが食欲をそそる。
商品の中には筋が残されているものもあるが、おそらくあえてそうしているのだろう。
選ぶ人のために、様々な形で解体をしているんだろうな。
次にカウンター奥にある、解体途中の肉へ目を向ける。
ニビという魔獣の肉と言っていたが……横にあるのが、その皮だろうか。
大部分は黄色だが、一部分には茶色が交ざっている。
尻尾の数で強さが変わると言っていたが、キュウビとなればどれほどの強さなのだろうか。
「デンは、サクラハナ国の魔獣について知っている事はあるか?」
『ない。我はジーラギ国から出た事がないからのう』
「SSSランクだったら、勝てると思うか?」
ウラナワ村の周辺には他よりも進化した魔獣がいるだろう。もしかすると、ランクの高い魔獣だっているかもしれない。
『……ふんっ! 愚問だな』
「だな。すまん、変な事を聞いた」
ジーラギ国で唯一のSSSランクだったフェンリルのデン。
孤高だったが故に、時折傲慢になる事もあるが、それだけの実力があるとも言える。
事実、デンの実力は同じSSSランクの魔獣と戦っても引けを取らないと、俺は思っている。
「お待たせしました、レインズさん」
「ん? あぁ、大丈夫だよ。用は済んだんですか、レベッカさん?」
「大丈夫だよ。うふふ、これからが楽しみだな~」
「楽しみ?」
「ああああぁぁっ! いやいや、なんでもありませんから!」
えっと、まあ、女性同士で色々と話す事があったんだろう。
リムルは長い間、村を空けていたわけだしな。
「それじゃあ、次は鍛冶屋? それとも治療院?」
「か、鍛冶屋です!」
「そっか~。なら、もっと気合いを入れないとね!」
「はい!」
……リムルよ。お前は、どこに行くにも気合いを入れないといけないのか?
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