第21話:よろず屋のヒロ

 ――……ぅぅん、ふわああああぁぁ。


「……久しぶりに、ゆっくり寝られたなぁ」


 野営だったり、船の上だったり、なかなか大変な日々だったからなぁ。

 これからはゆっくりと過ごすことができるはずだ。


「っと、村長たちに挨拶に行かないとな」


 このまま寝ていたい気持ちもあったが、まずは村の事を知る必要がある。

 それから、ここでできる仕事を探さなければならない。

 魔獣狩りがメインになるだろうけど、それだけでは有事の時以外は仕事がないからな。

 客間から廊下に出ると、ちょうどその先でレジーナさんを見つけた。


「おはようございます、レジーナさん」

「おやおや、お早い事で。おはようございます、レインズさん」

「村を見て回ろうと思っているのですが、出歩いても――」


 そこまで口にしたところで、屋敷の外から声が聞こえてきた。


「村長! レジーナさん! おはようございまーす!」

「この声は、リムルさんですね。……せっかくですから、リムルさんに案内してもらったらどうですか?」

「リムルにですか?」


 ……まあ、村を知っている人がいてくれると、ありがたいか。


「わかりました。頼んでみます」

「うふふ。頼まなくても大丈夫だと思いますよ」

「……? では、先に失礼します」


 頼まなくてもって、どういう事だろう。

 そんな事を考えながら屋敷の玄関に移動すると――


「おはようございます、レインズさん! 村をご案内しますので、一緒に行きましょう!」


 ……なるほど、こういう事か。

 確かにこれなら、俺が頼まなくてもいいな。


「それじゃあ、お願いするよ」

「はい!」

「おやおや、もう行くのですかな?」


 元気いっぱいなリムルに苦笑していると、村長が微笑みながら顔を出してきた。


「おはようございます、村長。少し、リムルと村を見て回りたいと思います」

「わかりました。では、ご飯はいかがしましょうか? レインズ殿は朝もまだ――」

「あの! 私、弁当を作ってきたので、これを食べましょう!」

「……弁当? だが、いいのか?」

「はい!」


 ふむ、ならば飯の心配はないか。


「ということなので、そのまま向かいたいと思います」

「では、気をつけていってきてくださいね」


 ニコリと微笑んだ村長に見送られて、俺とリムルは屋敷を後にした。


 最初に向かった先は、様々な商品が所狭しと並べられている建物。……商店、なのだろうか。

 だが、並んでいる商品に統一性はなく、なんでも屋なのかもしれない。


「ヒーロさーん!」

「失礼します」


 店に入ると、奥のカウンターでお茶を飲んでいる初老の男性が顔を上げた。


「おや? リムル君ではないですか。それと……」

「レインズと言います」

「あぁ、移住者の方だね。すまないね、私は足が悪くて、宴には参加していなかったんだよ」


 カウンターに手をついて立ち上がった店主は、ニコリと微笑んで自己紹介をしてくれた。


「私は店主のヒロと言います」

「こちらは、なんでも屋ですか?」

「みたいなものだね。ここではよろず屋と言わせてもらっているけどね。みんなのいらなくなった物を買い取ったり、修理して売ったりしているんだよ」

「それが、これですか」


 明らかに使えないだろう壊れたコップに、腕の取れた人形に、何に使うか全くわからない道具。

 これらを買い取っているというのだから、まさによろず屋なのだろう。


「私は珍しい物が好きでね。自分でも時折、都市に行っているんだよ」

「その足でですか? 難儀でしょう」

「たまにやってくる行商人の馬車に乗せてもらうんですよ。帰りは冒険者ギルドに依頼を出してね」


 よろず屋なんてものを営んでいる人なんて、そんなものだろう。

 だが、ウラナワ村のような田舎の村で経営は成り立つのだろうか。


「あくまでも趣味ですからね」

「顔に出ていましたか?」

「60歳手前になると、わずかな表情からも読み取れてしまうんですよ。私の本業は魔獣の皮素材の加工ですからね」


 なるほど、それなら儲かりそうだ。

 魔獣素材を加工できれば、それだけで生活ができるとジーラギ国では言われている。

 それだけ、魔獣素材を使った装備は強力な品になるという事だ。


「凄いですねぇ。……なのに、よろず屋を?」

「趣味ですからね」

「あー……そうでしたね」

「レインズ君も、何か珍しい物……そうですねえ、魔獣の素材などでもいいですから、お持ちください。皮加工であれば、お力になれると思いますよ」

「その時は、よろしくお願いします」


 魔獣狩りは俺の得意とするところだ。

 ヒロさんの腕がどの程度なのかはわからないが、魔獣素材を加工できる時点で相当な凄腕だろう。

 田舎の村で十分な装備を揃えられるとなれば、ありがたい事である。


「……デンの体毛でも、なかなかの装備を作れるんじゃあ――」

『それは許さんぞ! 我の体毛はそんな事に使わせんぞ!』

「ん? 今、声がしませんでしたか?」


 宴に不参加という事は、デンの存在を知らないのだろう。

 ……まあ、近いうちに教える機会はあるだろうから、今はそのままでいいか。

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