閑話:リムル視点

 ジーラギ国では、驚きの連続だったな。

 港の人に声を掛けても返事はないし、返事してくれた人は酔っぱらいで絡まれちゃったし。

 でも、やっぱり一番の驚きはレインズさんに出会えた事だよね!

 酔っぱらいから助けてくれたし、まさか移住まで決断してくれるとは思わなかった。

 話をして、正直なところ、ジーラギ国は酷い国だなって思った。

 魔獣キラーなんてスキル、とても優秀なスキルなのに。スキルで強くなるのが、どうしていけないのかな。

 ……でも、私たちからすると、そんな国民性に感謝しないといけないね!


「最後の国がジーラギ国で、本当によかったな」


 一日でもタイミングが合わなかったら、出会う事もできなかったんだから。


 そして、私は見てしまったんだ。

 魔獣キラーのスキルの一端を。


「船上での戦いは、凄かったなぁ」


 部屋の窓から、魔獣の姿は見えていた。

 後はサクラハナ国に戻るだけって時にどうして、って思ったけど……レインズさん、本当に凄すぎるよ。

 魔獣キラーというスキルも破格だけど、まさかWスキル持ちだったなんて。

 ……ウラナワ村なんて田舎の村には、もったいない気もしてきたな。


「……ううん、そんな事ないもん! ここは、魔獣が生まれ落ちる最前線なんだもの! 魔獣の進化だって東西南北、魔獣を抑え込んでいる場所が進んでいるんだからね!」


 ど、どうして私は、自分に言い聞かせているのかしら。

 ……やっぱり、メリースさんに言われた事が関係しているのかな。


『――ねえねえ、レインズさんの事、好きなんでしょう?』


 いきなりそんな事を言われて、何も考えられなかったけど……うん、どうなのかな。

 私、レインズさんの事……。


「…………はぁ。こんな気持ち、初めてだなぁ」


 船上での戦いを見てから……ううん、違うな。

 私は、アクアラインズの港でレインズさんに助けられてから、ずっと気になっているんだ。

 最近では歳の近い人にこんな気持ちを抱くなんてなかったけど、どうしてかな。


「……レインズさん、格好よかったなぁ」


 ……はっ! い、いけない、いけない!

 きっとレインズさんは、私みたいな子供なんて眼中にないに決まっているもの。


「もう少し、大人だったらよかったのになぁ」


 私は今年で23歳になった。

 レインズさんとは12の年の差がある。

 ……ダメ、だよね。


「…………ああああぁぁっ! もう、こんな事ばっかり考えてるよおおおおぉぉっ!」


 あううぅぅぅぅ、こんなんじゃあ、寝られないよ。

 ……それに、模擬戦の時のレインズさんも、格好よかったな。

 ギレインさんは酔っぱらっていたけど、本気で戦っていたと思う。

 それなのに、レインズさんは冷静に戦い、そして勝ってみせた。

 あんなのを見せつけられたら、私じゃなくても惚れてしまう……私じゃなくても……惚れちゃう?


「……ダ、ダダダダ、ダメだよおおおおぉぉっ! そんなの、絶対にダメだから!!」


 若い人は少ないけど、いないわけじゃないんだもん!

 それに、レインズさんと同年代の人なら、まだいるし!

 この村で、レインズさんが他の人と付き合うとか……結婚とか……。


「…………か、考えたくもないよ!」


 レインズさんと同い年のバージルさんに、私より3つ上のレベッカさん。年上だけど、エミリーさんもライバル候補だわ!


「他にもライバルがいるはず! ……ま、負けたくないわ!」


 私にはジーラギ国から一緒にいたっていう優位があるんだもの!

 積極的にいけば、負けるはずないわ!


「……せ、積極的にって、どう積極的にいけばいいのよおおおおぉぉっ!」


 生まれてから今日まで、恋なんてした事なかったんだもの! どうしたらいいのかなんて、わからないわよ!


「メリースさんに相談を……って、ダメだ。メリースさんとギレインさんの馴れ初めは……!」


 か、考えただけで、恥ずかしくなっちゃうもの!

 これだけは無理! 私には絶対に無理だもん!


「……はぁ。結局、私がどうするかなんだよねぇ」


 明日からも、積極的にレインズさんに声を掛けていこう。

 ウラナワ村を案内しないといけないし……わ、私が一緒じゃないと、色目を使われそうだもの!


「うん、そうだ! よし、明日は朝から村長の屋敷に顔を出そう! そうと決まれば、早く休まないとね!」


 自分に何度も言い聞かせて、布団の中に入る。

 ……。

 …………。

 ………………私、寝られるかな。

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