第18話:歓迎の宴

 ウラナワ村に到着した夜、村長は俺とデンのために歓迎の宴を開いてくれた。

 一人と一匹のために宴だなんて、さすがに申し訳ないと断ったのだが、一緒にここまでやって来た四人が断固として聞いてくれず、何故かギレインまでもが宴を開くとうるさかったのでこうなった。


「あの人は、単に楽しく飲みたいだけよ」


 というのは、メリースさんの言だ。

 まあ、ギレインの事を一番知っている人の言葉なのだから、その通りなんだろう。

 酒は少しだけ嗜むが、ジラギースにいた時はほとんどが家飲みだったな。たまにガジルさんやエリカと飲んだ事もあったけど、両手で数えられる程度だった。

 ……ちょっと待て、20年も門番として働いていたのに、それでも10回くらいしか飲みに行ってないって、俺の人生ヤバすぎないか?


「こっちですよ、レインズさん!」


 ……いや、今はそんな事を考えるのは止めておこう。

 目の前では、俺の事を手招きしてくれるリムルがいるし、宴の会場に行けばさらに多くの村民が俺を迎えてくれている。

 この場を楽しまなくては、もったいない。


「……もしかすると、今までの不幸が、今日から解消されていくのかもしれないな」


 ずっと後ろ向きな考えばかりだったが、これからは変わっていくはずだ。

 そんな事を考えながら、俺は会場になっているウラナワ村の中央広場へとやって来た。


「……何をやっているんだ、デン?」


 そこで俺が見たものは、デンに群がっている子供たちの姿だった。

 ギースやミリルだけではなく、さらに小さな子供の姿まである。

 ……いやまあ、安全ではあるんだが、それでいいのか、親御さんよ。


「うふふ、デンは大人気ですね」

「本人は迷惑そうにしてますけどね」


 地面に寝そべりながら飯を食べているのだが、その背中では子供たちが飛び跳ね、滑り台のようにして遊んでいる。

 他の人から見ると大人しくしているように見えるが、デンの視線は俺に助けを求めていた。

 ……まあ、放っておくけど。


「料理はこちらですよ」

「ありがとう、リムル」


 嘘だろ! と言わんばかりに目を見開いたデンだったが、子供たちのためならば致し方ないだろう。……うん、仕方がない。


「おう! 来たか、レインズ!」


 名前を呼んだのは、ギレインだ。

 その横には村長がおり、村長と同年代の女性が座っている。


「初めまして、レインズさん。私はトマスの妻で、レジーナと申します」

「レインズです。今日からこちらでお世話になります」


 レジーナさんと挨拶を済ませると、ギレインが隣を何度も叩いているので、苦笑しながらそちらに座る。

 リムルは俺の隣に腰掛けた。


「なあ、レインズ! お前、強いらしいじゃねえか!」

「メリースさんとギースから聞いたんですか?」

「ギースからだな! メリースは……拳骨されてから、まだ怒ってるんだよう」


 ……この人、なんだかかわいそうな人だな。


「まあ、そこはいいじゃねえか!」


 いいのかよ!


「なんだ、スキルがあるんだろ? 魔獣キラー、だっけか?」

「えぇ、そうです。魔獣にしか効果を発揮しないので、対人戦は苦手ですけどね」

「この村にいたら、対人戦なんてほとんどねえから安心しろ! 魔獣を狩って、狩って、狩りまくって! 生計を立てているからな!」


 ガハハと笑いながら、右手に持った木製のカップを口へと運ぶ。

 呼気からは酒の匂いが結構してくるので、俺が来るまでにだいぶ飲んでいるみたいだ。


「だがなあ、レインズ。対人戦はほとんどねえが、模擬戦ってのは、訓練の中でよーくやるんだよ」

「そうですね。ジラギースにいた時には、俺もよくやっていましたよ」

「だよなあ! というわけで、いっちょやるか!」

「……はい?」


 いやいや、今の話の流れでどうしてそうなる!


「よーし! ギース、木剣を持ってこーい!」

「いや、ちょっと、ギレイン!?」

「あなた! レインズさんが困ってるじゃないのよ!」

「何を言ってるんだ、メリース! 俺の愛の力、見せてやるぜい!」


 これは、本日二度目の拳骨が見られるかも――


「負けたら一週間、禁酒だからね!」

「おうよ!」


 って、止めないのかよ!?


「持ってきたぞ、親父!」

「よくやったぞ、ギース! ガハハハハッ! やるぞ、レインズ!」


 ギースも何故に持ってくるかね!?

 木剣を受け取ったギレインは、大股で中央の松明のところへと歩いていく。


「ねえねえ、レインズさん」

「ちょっと、メリースさん! どうして止めてくれなかったんですか!」

「ごめんね。それよりも、絶対に勝ってちょうだいね!」

「……旦那さんが負けるところでも見たいんですか?」


 予想外のお願いに、俺は首を傾げてしまう。


「これで、酒代が浮くわ!」


 ……うん、理由は至極単純なものだったよ。


「勝てるかどうかは、保証できかねますよ?」

「大丈夫だって。私が保証するからさ!」


 いやいや、相手は自警団の隊長なんですけどねぇ。

 俺はため息をつきながら立ち上がると、その背中に声が掛けられた。


「頑張ってくださいね、レインズさん!」

「……あぁ、頑張るよ」


 ……男なんて、現金なものだな。

 優しい笑みを向けてくれたリムルくらいには、良いところを見せたいと思ってしまった。

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