第16話:道中の会話
五人と一匹という大所帯になった俺たちは、そのまま街道を北上してウラナワ村へと向かう。
「どれくらい掛かるんだ?」
「徒歩で5時間といったところでしょうか」
「5時間!? ……その距離を、メリースさんたちは歩いてきたんですか」
子供を連れての5時間の道のりは、相当過酷なものではないかと心配になる。
しかし、これも修行なのだとメリースさんは口にした。
「この子たちは自警団とは言っても、まだ見習いだからね。体力を付けるためにも、歩かせているのよ」
「だが、魔獣との戦闘は危なかったんじゃないですか?」
「確かにね。まさか、オニビが整備された街道に現れるとは思ってなかったのよ」
笑いながら話しているが、人死にが出ていたら笑い話では済まないだろうに。
「メリースさんは、襲われていた隊商を助けたんです」
「悪いのはあいつらだっての。魔獣対策もめちゃくちゃで、助けに入った俺たちを置いて逃げやがったからな」
「あの人たちは、援軍を呼びに行ってくれたのよ。逃げたわけじゃないわ」
ギースの物言いをメリースさんが宥めている。
「あの人たちが援軍を呼びにライバーナに行ってくれたから、リムルとレインズさんが間に合ったんだからね」
「まあ、そうだけどさぁ」
まだ納得できていないようなギースを見て、メリースさんは苦笑を浮かべている。
「ごめんなさいね。この子、頑固だから」
「メリースさんとギレインさんの子供なんだもの、当然だと思うよ?」
「あら、リムル。言うようになったじゃない!」
「ちょっと、メリースさん! 止めてくださいよ!」
魔獣がいるかもしれない街道なのだが、女性二人は歩きながら戯れている。
周囲に魔獣の気配はないので構わないが、気をつけてもらいたいものだ。
「それよりもさあ、レインズさん! 凄い剣術だったな!」
「ちょっと、ギース君。言葉使い!」
「構わないよ。それと、俺の剣術は凄くはない。凄いのは、俺のスキルだからな」
「そうなのか?」
魔獣キラーには、魔獣と対峙した時に威力が上がるだけではなく、俺の動きにも変化が起きる。
人と戦う時と比べて倍以上の速さで動く事ができるようになるのだ。
威力が上がっても、当たらなければ意味がないからな。
「魔獣キラーって、凄いスキルじゃないのよ!」
後方からの声はメリースさんだ。
……あれだけ戯れていたのに、こっちの会話を聞いていたのか。
「ウラナワ村では魔獣を狩って生計を立てていると聞いたので、少しは役に立てると思います」
「少しどころじゃないって! さっきの動きを見たら、村一番の働き手になるんじゃないかしら!」
何度も頷きながらそう口にすると、何故かニヤリと笑いながらリムルに視線を向けた。
「……リムル、いい男を捕まえたじゃないのよ!」
「そ、そうかな?」
「そうよー! ……それで、どこまでいったのよ?」
「……へっ?」
どこまでとは、どういう意味だろうか。
リムルも何を言っているのかわからないようで、首を傾げている。
「……ちょっと来なさい!」
「えっ! あの、えっ?」
すると、メリースさんがリムルの腕を引っ張って少し離れた場所で何やら話をしている。
何を話しているのかは聞き取れないので、俺たちは仕方なく足を止めた。
「なあ、レインズさん! 俺の師匠になってくれよ!」
「師匠だって? だが、ギースに剣を教えてくれている人もいるんだろう?」
「いるんだけど、親父は自警団の隊長だから、あんま時間がないんだよなぁ」
なんと、ギースの父親は自警団の隊長らしい。
「夫婦に子供まで自警団なのか。……俺が教える事なんて、ないんじゃないか?」
剣士を目指すなら、恵まれた家庭環境だと思う。
まあ、どこの国でも上に立つ者は忙しいからギースの言っている事も正しいのだろうけど、教えてくれる人がいるなら、なるべくは変えない方がいいだろう。
「剣筋や教え方も変わってくるはずだから、ギースの親父さんに確認を取ってからだな」
「そ、それじゃあ、親父から許可が出ればいいんだな!」
「いいんだが……もし、俺が師匠になるなら、ミリルの言っていたみたいに言葉使いに気をつける事、いいな?」
「はい!」
ギースはデンの上でとても喜んでおり、ミリルも小さな声で『よかったね』と口にしている。
俺程度の実力で師匠とか、むず痒い気がしないでもないが、教えられる事があるなら教えてあげたい。
「ち、違いますから!?」
「そうかしら? でも、まんざらではないでしょ? 呼び方だって……ねぇ?」
「うっ!?」
……マジで、何の話をしているんだか。
「と、とりあえず! 早くウラナワ村に戻りましょう! ここにだって、魔獣が来ないと決まったわけではないんですからね!」
仰る通りなんだが、大声は魔獣を引き寄せる可能性もあるので止めてもらいたい。
「全く、恥ずかしがり屋なんだからー!」
大股でこちらに歩いてくるリムルを、メリースさんは笑いながら見つめている。
「なあ、リムル。どうしたんだ?」
「な、なんでもありませんからね! 行きましょう、レインズさん!」
「あ、あぁ……?」
顔を真っ赤にしたままリムルが前に行ってしまったので、俺はため息をつきながらその横に並んで歩き出したのだった。
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