第15話:VSサクラハナ国の魔獣

 北の街道に出てからは全力で走り続けている。

 そして、5分程走っていると、先の方から剣戟の音が聞こえてきた。


「リムル、戦闘経験はあるか?」

「あ、ありません! 私にできるのは、回復魔法くらいです!」


 そのリムルだが、俺の全速力について来れないことは何となくわかっていたので、デンの背中に乗っている。

 最初は驚いていたが、早く護衛と合流したいという気持ちが上回ったのだろう、ごくりと唾を飲み込んでから飛び乗っていた。


「俺は魔獣に切り込む。リムルは、怪我人がいたらすぐに回復を頼む」

「わ、わかりました!」

「デンはリムルの護衛を頼む」

「我も参戦したいのだがな?」

「お前を最初に見た人は、絶対に襲い掛かってくるぞ? せめてリムルと一緒にいてくれ」

「むむ……ならば、致し方ないか」


 とても残念そうにしているデンだが、護衛を助けてからは存分に働いてもらうつもりなので、きっと機嫌を直してくれるだろう。


「見えた!」


 護衛の姿は三人いるが、そのうち一人は怪我を負っている。

 そして、魔獣は五匹。

 二人が怪我をした一人を庇うよう背にして牽制している。


「助太刀する!」


 俺はそう口にするのと同時に、一匹の背後から袈裟斬りを放ち、火の玉に似た魔獣を一太刀で両断する。

 残る四匹の魔獣がこちらを向くと、火の玉の中央に存在する一つ目が俺を捉えた。


「き、気をつけてちょうだい! オニビは火属性の魔法を放ちます!」


 槍を手にする最年長と見られる赤髪の女性がそう叫び、大きく頷きながら再び剣を振るう。

 横薙いだ刀身が二匹目を上下に分かつのと同時に、俺も二人の隣に並び立つ。


「ウラナワ村の護衛の方々ですか?」

「は、はい!」

「リムルは俺の従魔と一緒にいます。まずは、こいつらの片付けましょう! 俺が二匹を受け持ちます!」

「お願いします!」


 桃髪を揺らす杖を持った少女が返事をし、赤髪の女性が威勢よく答える。


「いくぞ!」

「「はい!」」


 二匹が固まっているところへ突っ込んでいくと、俺は視線で威圧を飛ばす。

 魔獣キラーのおかげだろうか、これをする事で俺と視線を交えた魔獣のほとんどが怯んでくれる。

 サクラハナ国の魔獣に通用するかは疑問が残るところだったが、問題なく通じたようだ。


「止まっていろ!」


 これが俺対魔獣という構図であれば、怯んだ魔獣から倒して数を減らすのだが、今回は後ろに守るべき対象がいる。

 動けない敵を倒すよりも、そちらをある程度放置して動ける敵から倒す事を選択する。

 まあ、オニビと呼ばれた魔獣のランクは俺の感覚だとFランク程度だろう。

 数さえいなければ、問題にはならない。


「ふっ!」

『ブシュルルゥゥゥゥ……』


 小さくなっていく鳴き声を耳にしつつ、動きを止める事なく威圧を飛ばしたオニビへと迫り、こちらも一太刀で仕留める。

 女性二人へ加勢しようと振り返ったのだが、そちらの戦闘もすでに終了していた。


「……ふぅ。ギース、大丈夫?」

「あ、あぁ。大丈夫だよ、母さん」

「ごめんね、ギース君。私が魔獣に気づかなかったから」


 傷を負っていた赤髪の少年も軽傷のようで、とりあえずは一安心といったところか。


「メリースさん! ミリルちゃん! ギース君!」

「リムルちゃ――ええええぇぇっ!?」


 リムルの声が聞こえて振り返った赤髪の女性だったが、デンの背中に乗っている姿を見て悲鳴にも似た声をあげている。


「あー……あれが、俺の従魔です」

「ちゃんと説明をせんか、お主は」

「戦闘中に細かく説明なんてできないって。リムル、少年の方が怪我をしているから、回復を頼む」

「えっ! ギース君、大丈夫なの?」


 俺の言葉に慌ててデンから飛び降りたリムルは、ギースと呼ばれた少年の横で膝を付く。


「オニビの炎が掠っただけだから、大丈夫だよ」

「私を庇ってくれたんです」

「そうなのね……ギース君、ありがとう」


 笑みを浮かべながらお礼を口にしたリムルの両手が、火傷を負ったギースの左腕にかざされる。

 すると、白い光が傷口に顕現し、火傷の痕が徐々に薄くなっていく。

 しばらくして光が消えると、火傷の痕は完全に無くなり、元の肌の色に戻っていた。


「ありがとう、リムルねえ

「私には、これしかできないからね」


 立ち上がったギースに笑みを返し、リムルは俺の隣に移動した。


「みんなが無事でよかったわ。こちらの方は、移住する事になったレインズさんです!」

「レインズです。できるのは戦う事くらいですが、よろしくお願いします」

「いやいや、さっきの戦い方を見たら、十分すぎるくらいの実力じゃないのよ! 私はメリース。ウラナワ村の自警団に所属しているわ!」

「私はミリルです。自警団所属で、魔法師です」

「俺はギース。同じく自警団所属、剣士です!」


 メリースさんは俺よりも年上だろうか、自警団所属というのも理解できる動きをしていた。

 しかし、ミリルとギースはまだまだ子供ではないか。

 ……それだけ、ウラナワ村には働き盛りの若者がいないという事なのだろう。


「本当はライバーナで少し休むつもりだったんだけど、どうしようかしら?」

「私は大丈夫!」

「俺も!」


 子供たちが大丈夫と言っているのだから、食事までしていた俺が弱音を吐くわけにはいかない。


「そのままウラナワ村に向かいましょうか」

「そうですね」

「なんなら、我の背中に乗せてやっても良いぞ?」

「「乗りたい!」」


 デンの言葉に声をあげたのは、やはりというか、子供たちだった。

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