第14話:港町ライバーナ

 四日ぶりの大地を踏みしめ、俺は全く異なる造りの建物が建ち並ぶ光景に目を奪われた。

 アクアラインズでは少ない人員が、必要最低限の動きできびきびと動いている印象を受けたが、ここは違う。

 多くの人が行き交い、たくさんの船から荷物が下ろされては積み込まれていく。

 船も商船だけではなく、豪華絢爛な大きな船まであって圧倒されてしまう。


「ん? なんだ、貴族の船もあったのか」

「貴族、ですか?」

「あぁ。あれだけでかい船は、そうそうないからな。お前たちも、絡まれないように気をつけろよ」


 貴族って事は、統括長みたいなもんか。


「……気をつけます」


 なら、そうすべきだろう。

 とはいえ、飯を食って時間を潰し、迎えが来たらここを離れるんだ。そうそう問題にはならんだろう。


「ならいい。っと、レミーにも言っておかないといけんな。それじゃあ、達者でな」

「ありがとうございました、ガイウスさん!」

「ありがとう、ガイウスさん」

「ガハハハッ! いいって事よ。俺も楽しかったからな!」


 この人、親しくなった途端に話し方が気さくになった気がするよ。

 まあ、そのおかげで俺も楽しい船旅ができたんだけどな。


「それじゃあ、まずはご飯を食べに行きますか?」

「そうだな、そうしよう」


 港に留まっていても仕方がないので、俺はリムルの案内で一軒の食事処へと足を運んだ。


「いらっしゃい! 空いている席に座んな!」


 恰幅の良い女性が明るい声でそう口にしたので、俺たちは壁際のテーブルに腰掛ける。


「注文は決まってるかい?」

「私はハクラン魚の煮つけをお願いします」

「俺は……オススメってありますか?」

「そうさねぇ……今なら、オルクル貝を使った料理がオススメだねぇ」

「なら、それを」

「はいよ!」


 ふむ、オルクル貝か。……いったいどんなものなのだろうか。


「あの、本当によかったんですか?」

「というと?」

「オルクル貝って、とっても大きな貝なんです。食べ切れるかどうか、わからないかと」

「だが、貝なんだろう?」


 いくら大きいとはいえ、大きな貝であればある程度の想像はつく。

 そんな心配されるほど大きいわけはないだろう――


「お待ちどうさま!」


 ――ドンッ!


 ……前言撤回。


「な、ななな、なんだこれはあっ!?」


 直径1メートルはあるだろう丸テーブルの半分を、貝らしき料理が乗せられた皿が占領してしまったんだが!


「何って、オルクル貝だよ!」

「でかすぎないか!?」

「そうかい? これでも小ぶりな方だけど……ははーん。あんた、さてはよその国から観光にでも来たんだね? オルクル貝はこの辺では名物で、大食いに挑戦する奴もいるくらいなんだよ?」


 ……オススメと聞いて、大食いの名物を出すとか、普通は考えないだろう!


「言っておくけど、ここの店じゃあ、お残しは許さないからね! それと、ハクラン魚の煮つけだよー」

「あ、ありがとうございます」


 リムルには優しい笑顔で料理をテーブルで置き、女将は去っていった。


「……す、すみません、レインズさん! そうですよね、初めてジーラギ国を出たんだから、知らないのは当然ですよね! あぁぁ、言っておけばよかったです!」

「い、いや、大丈夫だ、リムル。美味いなら、全く問題はない」


 この量は殺人級だが、俺には問題にならない。

 単純に俺が大飯食らいってのもあるが、裏技があるからな。


「とりあえず、食べるか。冷めたらもったいないしな」


 というわけで、俺たちは食事を始めた。

 殺人級サイズのオルクル貝だが、味はとても美味しかった。

 身自体に甘味があり、咀嚼するほどに口の中へと広がっていく。

 歯応えには弾力があって楽しめるので、飽きがこない。

 なるほど、これならサイズはともかく、オススメしたくなる気持ちもわかるな。


「どうして、切り分けて提供しないんだ?」

「オルクル貝は、切ってからの味の劣化が早いそうです。なので、丸々提供するしかないらしいですよ?」


 そうか……なんとも、もったいない。

 会話を挟みながら食事を楽しんでいると、何やら外が騒がしくなってきた。


「何かあったんでしょうか?」

「ガイウスさんが言っていた、貴族じゃないか?」


 騒動を起こすのはいつだって貴族だからな。関わらないのが吉だろう。


「貴族じゃないみたいだよ」


 俺たちの会話が聞こえていたのか、女将が教えてくれた。


「それじゃあ、何が?」

「なんでも、北の街道で魔獣が現れたんだと、襲われていた隊商が言ってたらしい」

「ん? それじゃあ、魔獣は討伐されたんですか?」


 襲われていた隊商がここにいるなら、そういう事だろうと思い聞いてみたが、どうやら違ったようだ。


「いや、通り掛かった人に助けてもらったんだと。それで、援軍を呼んでいるらしいよ」

「そうなのか……どうしたんだ、リムル?」


 女将との会話の最中、何故かリムルがずっと黙っている。

 不思議に思い問い掛けると、その理由が判明した。


「……北って、ウラナワ村がある場所です。その人たちって、迎えに来た人たちかも!」

「そういう事か! デン!」

『ん? 急にどうしたんだ?』

「飯だ!」


 緊急事態とはいえ、女将との約束を反故にはしたくない。

 俺はオルクル貝を影に投げ入れてデンに食べさせた。


『……ん! 美味いではないか!』

「ごちそうさまでした! 急ぐぞ、リムル!」

「は、はい! 女将さん、お代は置いておきますね!」


 食事処を飛び出した俺たちは、リムルの案内で北の街道へと急いだのだった。

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