第13話:サクラハナ国
その後、船旅は三日に渡ったが魔獣の襲撃は一度もなかった。
実に平和な航海だったのだが、途中でデンが飽きてしまった時は正直どうしようかと思ったものだ。
「三日も体を動かせんと、むず痒くて仕方ない! レインズ、試合をしようぞ!」
「おまっ!? こんなところで試合をしたら船が壊れるだろうが!」
「構わん! 我を楽しませろ!」
「だああああっ! 落ち着け、頼むからな、デン!」
そんなこんなで、最後の一日は俺の影の中に入ってもらった。
俺は見た事がないのでわからないが、デンが言うには影の中はとても広大であり、走り回るだけなら問題ないのだとか。
……それなら、最初に影に戻りたいと言えばいいものを。ガイウスさんが顔を青くしてたじゃないか。
「あっ! レインズさん、見えてきましたよ!」
「あぁ、そうだな!」
……あぁ、なんて感慨深いんだろう。
ここで、俺は新しい生活を始める事になるんだな!
「ジーラギ国は島国で、小国だった。俺は、やっと飛び出す事が――」
「ようこそ! 島国のサクラハナ国へ!」
「あぁ、やって来たんだ、島国サクラハナ国! ……えっ……しま、ぐに?」
……あれ? これ、何も変わってないような?
「言ってませんでしたっけ? 私の故郷はサクラハナ国のウラナワ村ですよ?」
「……島国なの?」
「はい」
「……大陸国じゃなくて?」
「違います」
「……そ、そうか。まあ、そんな事も、あるよな」
う、うん。人の役に立つためにジーラギ国を飛び出したんだ。国の大きさなんて関係ないよな。……同じ島国だけど。
「……ま、まさか、移住を取りやめるとか言いませんよね!?」
「い、言わない、言わないよ! これは俺が決めた事なんだから、大丈夫!」
しまったな。不安が顔にガッツリと出てしまったみたいだ。
「島国だって、最初に言っておくべきでしたね。あの、本当に気が変わったなら構いませんよ?」
「だから、本当に大丈夫! 移住するから! 国の規模なんて関係ないよ。……俺は、誰かの役に立ちたいだけだからな」
俺自身が何を求めていたのか、それを忘れてはいけない。
そして、リムルと会話をする中で、俺は彼女の役に立ちたいと思ったんだ。
「不安にさせてしまってすまない。この通りだ」
誠意を見せるため、俺は腰を直角に曲げて謝罪を口にする。
「あの! そんな、謝らないでください! 謝らなければならないのは、私の方なんですから、すみませんでした!」
そして、何故かリムルまで頭を下げてしまった。
……この状況、どうしたらいいのやら。
「お前ら、何をやってるんだ?」
……ありがとう、ガイウスさん。話題を変えるチャンスをくれて。
「いや、その、なんでもないよ。それで、あとどれくらいで到着できそうなんですか?」
「んあ? ……そうだなあ、大体二時間くらいだな。昼前には到着するだろうよ」
顎髭を撫でながらそう答えたので、すかさずリムルに話題を提供する。
「なあ、リムル。サクラハナ国には、美味い飯はあるのか?」
「えっ? あの、えっと、ありますよ? 港町ライバーナでは、新鮮な魚が毎日のようにあがりますから」
「おぉっ! それは楽しみだな。まずは、腹ごしらえをして、その後にウラナワ村へ出発って事でいいのか?」
突然の話題転換に最初は慌てていたリムルだったが、到着してからの行動に対する質問にはしっかりと答えてくれた。
「迎えが来るにはまだ少し早いので、食事の時間くらいは取れると思います」
「そうか! いやー、よかった!」
「なんだ、船の料理は不味かったか?」
「ち、違いますよ、ガイウスさん! 俺は陸地でゆっくりと食べたいだけですって!」
まさかガイウスさんからちょっかいを出されるとは思っておらず、慌てて返答する。
「ガハハハッ! わかってるって!」
笑いながら背中を叩いてきたガイウスさんは、そのまま船首のところへ歩いていった。
「おーい、レインズ!」
俺がガイウスさんの背中を見ていると、突然声が掛かった。
「どうしたんですか、レミーさん」
「おいおい、あたいは冒険者だよ? ずっとさん付けで呼んでるけど、レミーでいいわよ!」
……外の国の女性は、呼び捨てで呼ばれる事が好きなのか?
「それよりもさあ、サクラハナ国に到着したら、一本模擬戦でもしないかい?」
「模擬戦? どうして俺がレミーと?」
「あんたの太刀筋が気に入ったんだよ! どうだい、一本!」
うーん、俺の魔獣キラーは魔獣にしか力を発揮しないのと違い、レミーのヘビーランスは槍を使えば誰が相手でも発動するものだ。
それを考えると、模擬戦をせずとも勝敗はわかりきっている。
「……遠慮しておきます」
「えぇー! どうしてさ! なんなら、あたいに勝ったら、一晩好きにしてもいいって権利もやるよ?」
「ダメですからね! レインズさん! 時間がありませんから!」
……そこでどうしてリムルが怒鳴る? あの、めっちゃ怖いんですけど。俺を睨まないでくれよ!
「と、というわけで、すまないな、レミー」
「ちぇー、仕方ないわね。……ねえ、リムル!」
「な、なんでしょうか?」
模擬戦を断られたと思ったら、今度はリムルの肩に手を回して何やら耳打ちをしている。
「……なんだろ?」
「……! ち、違いますから!」
顔を真っ赤にしているが、大丈夫なんだろうか。
だが、喧嘩になっているわけではないようなので、ここは放っておく事にしよう。
……サクラハナ国、楽しみだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます