第12話:事情説明
その後、ガイウスさんとレミーさんにデンの事を紹介したのだが、完全に呆れられてしまった。
「こんな従魔がいるなら、最初から言ってくれよな!」
「全くだ。他に護衛がいたら、斬り掛かっていたかもしれないぞ」
「我がレインズ以外の相手に負けるわけはないが、確かに面倒になったかものう」
「……すまなかった」
これは確かに俺の説明不足だったので、素直に謝るしかない。
……こういう時、今までなら罵声を浴びせられて、船を降りろとか言われるんだろうが。
「まあ、戦力になる事は変わらないからいいけどね!」
「そうだな。実際に、魔獣は逃げていったようだし」
「……いいのか?」
だが、この二人は肩を竦めるだけであっさりと納得してくれた。
……本当に、ありがたい事だ。
「レインズさん! 魔獣が逃げたと聞きました……けど……あれ?」
……あー、リムルさんにも説明してなかったっけ。
というわけで、リムルさんにも二人にした同じ説明を行った。
「……えっと、という事は、この大きな魔獣が、デン?」
「そういう事だ」
「しゃ、喋った!?」
「む、確か犬っころのまねをしておったか。かーかかかかっ!」
――グラグラ。
でかい図体のまま大声で笑うと、船体が震えるぞ。
「おい、そろそろ落ち着いてくれないか?」
「かかかかっ! ……うん?」
甲板に立っていた全員が何かに掴まっており、その様子を見たデンも自分の失態に気づいたようだ。
「……すまんのう」
「い、いや、いいんだよ」
「だが、次からは気をつけてくれ。船が壊れたら、元も子もないからな」
冷や汗を流しながらいいんだと言われても、説得力はないと思うんだが。
「とりあえず、デンがいればしばらく魔獣は襲ってこないだろう」
「我としてはつまらんがのう」
「ここは船の上だ。ガイウスさんの言う通り、壊れたら終わりだ」
というわけで、デンには甲板の先頭で見張りをしてもらう事になった。
何というか、とても奇抜な光景になったなぁ。
しかし、ここの船員たちは適応能力が高いな。あっさりとデンがいる光景に慣れてしまっている。
「ガハハハッ! 船の男なんてもんは、逃げ場がない海上で常に仕事をしているからな。従魔がいるだけで魔獣の脅威がなくなるなら、全く問題はないって事だ!」
ガイウスさんは快活に笑いながらそう口にして、また船室へと消えていった。
「あたいも戻るわ。今回の航海は、ゆっくり寝られそうだからね」
大きな欠伸をしながら、レミーさんも戻っていく。
見送った俺は、残ったリムルさんと一緒に海を眺めていた。
「……? どうしたんですか、リムルさん?」
そのリムルさんだが、海を眺めていると思いチラリと視線を送ると、こちらを見ていたようで目が合ってしまった。
「い、いえ! その……レインズさんって、とてもお強い人だったんですね」
「いいや、俺は弱いよ。国を追い出されるくらいにはな」
「謙虚、なんですね」
いいや、俺が謙虚だなんて、そんな事はない。
実際に門番という職ですら解雇されたわけだし、出世もできなかったわけだからな。
統括長に嫌がらせされた事は事実だが、それがなくても出世は難しかっただろう。
「俺は兵士の中で、中の下程度の実力しかないからな」
「……謙虚ですよ、やっぱり」
……なんて説明したら納得してくれるのだろうか。この際、謙虚だという事にした方が手っ取り早い気もするが。
「なあ、リムルさん。俺は本当に謙虚なんかじゃ――」
「リムル」
「……えっ?」
「その、リムルって、呼んでください」
……すまん、話のつながりがさっぱりわからないんだが。
「レ、レインズさんの方が年上なんですから、私にさん付けは、変かなって思ったんです!」
「……あー、まあ、リムルさんが……じゃなくて、リムルがそれでいいなら」
「――! はい!」
どうして呼び捨てにされて喜んでいるのだろうか。
……女性の気持ちは、わからないものだな。
「……そういえば、エリカはどうしてるだろうか」
「えっ?」
「ん? あー、いや、元同僚だよ。ジラギースで、二人だけ俺の友人と呼べる存在がいたんだ。今言ったエリカって同僚と、ガジルさんっていう直属の上司だった人」
助言はしたが、本当にジーラギ国を出てくれるかは個人の自由だ。
ガジルさんは出てくれそうだけど、まだ若いエリカはわからない。国を捨てるだなんて、相当な覚悟がないとできない事だからな。
……まあ、若いからこそ、外に出て生きていて欲しいと思うのだけど。
「……あの、エリカさんという人は、レインズさんの、その」
「元同僚だよ。どうしたんだ?」
「い、いえ! な、なんでもありません! 失礼しますね!」
そう口にしたリムルは、顔を赤くしたまま船室に走っていってしまった。
……風が寒かったかな。
「……はぁ。鈍感な奴だのう」
「何か言ったか、デン?」
「何も言っておらんよ」
あれ? 確かにデンの声が聞こえたように感じたが、気のせいだったみたいだ。
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