第6話:港町アクアラインズ
ジラギースを出発してから三日が経過した。
寄り道する事なく、街道を真っすぐに進んでいる。すでに目的地は決まっているからだ。
道中ではデンとの会話を楽しみながら、時折襲ってくる魔獣を一刀で仕留めながら進んでいく。
「もうそろそろか。楽しみだな!」
『まあ、お主が生きやすい国であればだがな』
「デンはまた、そうやって卑屈になる」
『……それをお主に言われたくはないがな』
なんだかため息をつかれたように感じたが、気のせいだろうか。
『それで、今はどこに向かっておるんだったか?』
「最初に言っただろう。ジーラギ国を出るとなれば、向かう場所は一つ――港町アクアラインズだよ!」
ジーラギ国は島国である。
故に周囲を海に囲まれているのだが、陸と海の境目がほとんど断崖絶壁に囲まれている。
その中で、唯一人里として整備することができた場所があり、そこにできたのがアクアラインズなのだ。
「ジーラギ国は内にこもる国民性だから船はそこまで出ていないけど、他国に向かうならそこしかない」
『出国する事はできそうなのか?』
「少ないだけで、ちゃんと船はあるんだよ。……まあ、外の国からやって来た商船くらいだけどな」
最小限の輸入や輸出の管理をしているだけで、それ以外の理由での入国は許されていない。
どうしてそこまでして内にこもり、内情を隠そうとするのかは俺にはわからないが、これも王様の方針なんだろう。
……そういえば、ジーラギ国の王様って、どんな人なんだろう。
王都ジラギースで20年も門番として勤めていたけど、一度も見かけた事がないかも。
それもこれも、統括長のせいなんだけどな。
「俺だって、魔獣討伐以外の仕事をしてみたかったよ」
王様が民の前に姿を現す行事の際は、ジラギース内の警備だけではなく、外の警備も当然強化される。
俺はもっぱら外の警備だったので、その姿を見た事がなかったのだ。
『お主のスキルを卑下するような王様だ。無理に姿を見る必要はないだろう』
「……まあ、それもそうか。おっ! ようやく見えてきたな、アクアラインズ!」
俺は森を進み、やや上り坂になっていた道を向けた先で、アクアラインズの街並みを見下ろしていた。
パッと見て印象に残るのは、色とりどりの屋根が日の光を浴びて輝いている光景だ。
赤や青や黄、これら以外の色の屋根もあって、遠目からでも視覚的な楽しみがある。
そして、その先に広がるのはどこまでも広がる広大な大海原。
色とりどりの屋根も美しかったが、日の光が水面に反射するその光景は、何ものにも負けない美しさと輝きを放っていた。
「……すげぇ……これが、海か!」
『レインズは海を見た事がなかったのか?』
「あぁ。生まれも育ちもジラギースだったからな。まあ、親の影響で外に出たいって気持ちはずっと持っていたけど、門番の仕事も意外と忙しかったんだよ」
仕事を押し付けられていたってのが、正しい表現なんだけど。
「……なあ、デン」
『どうしたのだ、改まって?』
俺はジーラギ国を出る。この決断に変わりはない。
だが、それは俺の従魔になっている――なってしまったデンにも当てはまる事だ。
「お前は、ジーラギ国を、故郷を出る事に不満はないのか?」
『我がか?』
「あぁ。お前は俺の従魔だけど、あれは不可抗力で起きた事だ。もし、お前がここを離れたくないなら、俺は従魔契約を解除する事もやぶさかでは――」
『何をバカな事を』
デンは、俺の言葉を最後まで聞く事なく、そんな言葉を口にした。
『我はお主に負け、そしてこの身を委ねたのだ。故に、我の意思など考える必要はない。我のいる場所は、お主のいる場所だ』
「いや、だからあれは不可抗力だって言っただろ?」
『であるならば、我はここに特別な愛着など持ってはいない。これでいいのか?』
……まあ、デンがそう言うなら、いいのかな。
「ありがとな、デン」
『ふん。礼を言われるような事はしておらんわ』
なんとなく、デンが照れているように感じて俺は笑みを浮かべる。
デンとの会話で気分も晴れやかとなり、俺は高台から一気に駆け下りていく。
ジラギースに比べると小さな都市ではあるが、その活気は負けてはいない。さすがは港町という事だろうか。
荷を運ぶ人たちの声が響き渡り、その近くで料理の屋台を営んでいる店主の声も交ざっていく。
それが門の外にまで聞こえているのだから、中に入ったらどれだけの活気が待っているのだろうか。
俺は楽しみになりながら門番に声を掛ける。
「入町の理由は?」
「船に乗って、国を出ます」
「何? 国を出るだと?」
そりゃあ、怪訝な表情を浮かべますよね。
そこで、俺は身分証代わりにしていた兵士証を取り出し、ジラギースで有名になってしまった言葉を口にする。
「魔獣キラーの元門番です。この度、解雇になりまして」
「魔獣キラー? ……あぁ、お前がそうか」
「ははっ! 解雇とは、正しい判断だろうに。それで国を出るとか、やっぱりお前は卑怯者だな!」
初対面の人間に対してずいぶんな言いようだなと思いながらも、門番は俺の入町を許可してくれた。
こいつらからすると、魔獣キラーという卑怯者が国からいなくなるわけだから入町を断る理由はない。
下卑た笑みをこちらに向けてくる門番の横を抜け、そのままアクアラインズへと足を踏み入れた。
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