第2話:ガジルとの話
そんな話もあったような、なかったような。
「そうでしたっけ?」
「そうだよ! お前はバカか!」
いや、忘れてただけでバカはないでしょうに。
「魔獣としか戦えないなら、外で魔獣の相手をしておけって言われてたじゃねえか!」
「……あー、そんな事もありましたね」
ガジルさんの話は事実だ。
魔獣キラーなんて悪しきスキルを持っているなら、その役目を果たせと言わんばかりに文句を言われ、俺は門番にされた。
まあ、それが嫌だったわけではないので素直に従ったのだが、その結果がこれだ。
門番として、それ以外でも、結構な仕事をこなしてきたという自負はあるんだけどなぁ。
「まあ、ジラギースの兵士たちは俺なんかよりも強いですし、そうそう魔獣にやられる事はない……と、思いますけど」
「それはないだろう。お前の方が、魔獣については詳しいじゃないか」
「……そうですね」
唇を噛みながら、ガジルさんはそう口にした。
仕事とはいえ、やり過ぎたかもしれないと思っている。そのせいで、これからの対処を押し付ける事になってしまったんだからな。
「……お前、やり過ぎたとか思ってるだろ」
「バレましたか?」
「顔に出過ぎだよ。だが、それはレインズのせいじゃない。お前の性格なら、ずっと門番でもいいと思ってたんだろう?」
……全く、この人はどうして俺の事をそこまで知っているんだろうか。
確かに、俺が門番以上の仕事をしていたのには、ずっと門番として仕事をする心構えがあったからだ。
俺なら、やり過ぎたとしてもやり切ることができると思っていたから。
まさか、いきなりの不当解雇なんて、誰にも予想できないだろうし。
「……なあ、レインズ。俺がもう一度統括長に訴えてみる。だから、もう少しだけ待ってくれないか?」
「それだと、ガジルさんに迷惑が掛かっちゃいますよ」
「だが!」
「いいんです。それに、俺もそろそろ潮時だと思っていましたから」
俺は苦笑しながら、ガジルさんの言葉を遮った。
そう、俺はそろそろだろうと思っていたのだ。
門番として20年間勤めあげたものの、そこから一度も出世することはなかった。
一度でも門番長とか、一つ上の階級に上がることができれば話は変わったかもしれないが、それもない。
事実、魔獣キラーが通用しない対人戦において、俺の実力は中の下程度である。
後輩にすら追い越されていく実力しか持っていないのだから、いつかは解雇されることは覚悟していた。
……何度も言うが、いきなりの不当解雇は予想外だが。
「一応、今日はジラギースの宿屋に泊まって、明日出発します」
「レインズ……お前、ジラギースを出るつもりなのか?」
ガジルさんと話ながら考えていたが、ここで俺ができる仕事はないだろう。
というか、ジーラギ国では仕事に就けないと思う。……それもこれも、魔獣キラーというスキルのせいだが。
まあ、まだ考えている最中だけどな。
「今日の夜にはまた間引いておきますけど、明日以降は気をつけてください」
「……はぁ。本当に、何から何まですまねえな」
頭を掻きながら申し訳なさそうに呟く。
俺としてはやりたくてやっていたので問題はないのだが、俺が去った後が不安である。
「まあ、すぐにどうこうなるってわけではないですし」
「それでもだよ。俺やあいつ以外は、魔獣の事をほとんどわかってねえし、マジでヤバいんじゃねえかと思ってるくらいだ。そういえば、声は掛けたのか?」
「……いいえ」
確かに、俺がいなくなったと知ったら、あいつは怒り狂いそうだな。
「しっかりと止めてくださいね。統括長に文句なんて言ったら、平のあいつだと、即刻解雇になっちゃいますから」
「それはお前の役目だろう。俺の役目じゃねえよ」
「……いやいや、ガジルさんは門番長で、直属の上司じゃないですか!」
なんでもかんでも俺に丸投げすんじゃねえよ、おい!
「とりあえず、あいつは森の中に任務で向かっている。今日すぐに出て行くわけじゃなければ、ちょっくら行ってみたらどうだ?」
「だから、俺じゃなくて帰ってきた時にガジルさんが」
「よろしく頼むぜ。そんじゃあ、俺はもう行くからよ。……本当に、すまなかったな」
……最後のセリフは、卑怯ですよ。
俺は兵士寮の中に消えていくガジルさんの背中を見つめながら、そんな事を考えていた。
「……はぁ。仕方ないか」
ガジルさんには新人の頃から今日までずっと、世話になりっぱなしだったんだ。
あいつの事くらいは、俺が何とかしないといけないかな。
「……仕事、探さないといけないんだけどなぁ」
頭を掻きながら、俺は足をジラギースの外へと向けた。
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