門番として20年勤めていましたが、不当解雇により国を出ます ~唯一無二の魔獣キラーを追放した祖国は魔獣に蹂躙されているようです~
渡琉兎
第一章:不当解雇
第1話:不当解雇
「――お前、解雇だから」
「……はい?」
突然の呼び出しを受けて兵士寮にある統括長の部屋へ足を運べば、いきなりそのような事を言われてしまった。
……うん、何の事だかさっぱりわからん。
「……あの、どういうことでしょうか、統括長?」
俺が当然の説明を求めたのだが、統括長は嫌悪感丸出しの表情でもう一度告げてきた。
「何度も言わせるな! レインズ、お前は門番を解雇! すぐにでもここから出て行きたまえ!」
「はい! えっ、いや、あの、理由を教えていただけませんか?」
いきなりの怒声に思わず頷いてしまったが、理由も聞かずにこの場を去ることはできない。
俺にだって生活が懸かっているのだ。
「……さっさと出て行かないか!」
「ですから、解雇の理由を――」
「スキルじゃよ、スキル! それでいいか!」
「いや、スキルだけが理由なわけ――」
「これ以上時間を無駄に使わせるな! いいから出て行けええええええええぇぇっ!」
「は、はいいいいいいいいぃぃっ!」
こうなった統括長には何を聞いても教えてくれない事を知っている俺は、仕方なくさっさと引き上げる事にした。
しかし、いきなりの解雇はさすがにしんどい。貯蓄もそこまであるわけではないのだから。
「あ、退職手当は……って、戻っても追い出されるだけだよなぁ」
ため息をつきながら、俺は兵士寮の廊下を自分の部屋に向けて歩いていく。
……まあ、理由は何となく察する事ができるけどな。
「統括長の言っていた事も、あながち間違いじゃないんだよなぁ」
――魔獣キラー。
この世界では、人それぞれにスキルが与えられる。
俺に与えられたスキルが、魔獣キラーという珍しいスキルなのだが……これがよろしくなかった。
俺の祖国、ここジーラギ国では、剣や魔法に関するスキルが重要視されているのと同時に、自らの実力で力を付けることがより重要視されている。
魔獣キラーというスキルは、外をうろついている魔獣に対して大きなダメージを与える事ができるのだが、ジーラギ国ではスキルの効果だけで勝利を掴む事を良しとしていない。
卑怯者だの怠け者だの、色々な言葉で文句を言われたものだ。
「……だけど、それだけでいきなり解雇って、あるのか?」
そんな事を考えなくはない。
何故ならば、俺は祖国のために、王都であるジラギースのために、15歳から今日まで、20年間もの年月を門番として働いてきたのだから。
「これ、不当解雇で訴えてもいいのか?」
……いや、無駄だろうな。
統括長が解雇と言えば、それは絶対に覆らない。
「全く、貴族の人間が統括長なんてやるなよな」
統括長は男爵家の三男だったか、四男だったか……まあ、とりあえず貴族だ。
俺は平民だし、後ろ盾なんてありやしない。
だから解雇の理由も聞かずに引き下がったんだけど……。
「しかし、これからどうするか」
門番一筋20年、35歳の俺がこれから就ける仕事なんてあるのだろうか。
……うーん、考えたところで、何の案も浮かんでこないな。
「っと、まずは荷物をまとめるか」
気づけば部屋に到着していたので、とりあえず荷物をまとめる事から始める事にした。
とは言っても、まとめる荷物もちょっとしかないんだし、時間なんて掛からない。……ほら、もう終わった。
「5分も掛からなかったな」
衣類が四組、装備を手入れする道具、手持ちのお金に、後は数少ない友人からの貰い物が数点。
大きめの布袋に詰め込むだけで、片付けが終わってしまったよ。
「……はぁ。行くか」
布袋の口を縛り、ひもを肩に掛けて廊下に出る。
同僚が何事かとこちらを見たが、声を掛けてくれる者はいない。
「……まあ、当然だよな」
魔獣キラーというスキルのせいで、俺は同僚からも忌避の目で見られ続けてきた。
それも我慢して尽くしてきたのだが、まさか国からも見捨てられる事になるとは思わなかったな。
部屋から玄関まで、俺は結構な人数とすれ違ったが、誰からも声を掛けられる事なく外に出る。
「――レインズ!」
だが、外に出たところで聞き馴染のある声に呼び止められた。
「……ガジルさん」
友人、と言っていいのかわからないが、俺と仲良くしてくれている数少ない人物の一人である直属の上司、ガジル門番長だ。
ガジルさんは必至な顔でこちらまで走ってきてくれ、目の前に来るのと同時に両手で肩をガシッと掴まれてしまった。
「ガ、ガジルさん?」
「レインズ! 本当に、本当にすまない!」
「いや、なんでいきなり謝ってるんですか?」
「解雇の事だよ! これは完全に不当解雇だ! 俺も統括長に何度も取り下げるよう進言したんだが、聞く耳を持たなかった」
「あはは。まあ、統括長ですしね」
むしろ、統括長に俺のために解雇を取り下げるよう進言したガジルさんの事が心配になってしまう。
主に、統括長からの嫌がらせがだ。
「お前、なんでそんなに落ち着いているんだよ!」
「まあ、不当解雇だとしても文句は言えませんからね、統括長には。それに、魔獣キラーってスキルがなかったとしても、俺は門番から出世できなかったんで」
スキル以外で思い当たる理由と言えば、これくらいだろうか。
「いや……いやいや、それが理由なわけないだろう! そもそも、魔獣キラーってスキルがあったからこそ、統括長はお前を門番に配置したんじゃねえか!」
……あれ、そうだったっけ?
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