「こういうところでも、景色が見えるんだね」

「まあね、普通にホテルだから」

「基本、外から見えないようにしてるから。それに、ここに来て外の景色を見ようとする人もいないんじゃない」

「そうかなあ。景色も重要だと思うけど」

「そう言う人はこんなところじゃなく、高級ホテルを使うわよ」

「そう高層の値の張るやつね」

「それはいいとして、今のあなたみたいに外を眺める人もいないと思うけど」

 僕は、外を眺めるのをやめてミオの方を向いた。見上げた先のミオの下着は、僕にとってもう景色と同等になっている。

「その窓は光取り窓だよね」

 ミオは僕が床にへばりついて覗いていた円形の窓を見て僕に言う。窓の直径は30センチほどで、窓のある高さを考慮するとドローンでも飛ばさなければ部屋の中は見えない、たとえ見えたとしても、人のくるぶしぐらいしか見えない。もし、目が合ったら覗いている相手は腰を抜かすかもしれない。

「ここから外を見てると、世界が歪んで見えるんだ」

「そこから見なくても、歪んでるんじゃない」

「それはさ、あくまでも文学的な表現で現実的じゃないんだ」

「そう言う意味で言ってるんだと思った」

「そうじゃなくてさ、現実に歪んでるんだよ」

 僕はもう一度、床にへばりついて窓から外を見る。ミオも下に降りて来て、自分の顔を僕の顔に摺り寄せるようにして、窓から外の景色を覗く。

「そう言われれば、そんな気もするけど」

「ここから見えるのは心象風景ではないんだよ」

「それはいいんだけど。あのロシア人とは距離置いてくれないかな」

「イワノビッチかい。こっちから近づくつもりはないんだけどね」

「クレームが来てるの」

「小柄な子」

「彼女は小柄じゃないな、どっちかって言えば大柄な方」

「そうか。ただそう言われても、僕は彼女たちと会ったことはないからね」

「声は聞いたでしょう」

「別に聞き耳立ててるわけじゃないよ」

「でも、あなたの部屋には聞こえてるはずだよ。そういう仕掛けがしてあるから」

「この前はそれを確かめに来たの」

「違うよ。実際聞こえなかったでしょう」

「とにかく、付きまとわれて困るっていうの」

「でも、あの部屋で何をしているのか言ったのは、彼女みたいだよ」

 ミオが急に立ち上がった。

「それは違うよ」

 僕はまたミオを下から見上げてしまう。

 そもそもドミトリーはロシア人じゃない。


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