イワノビッチの言っている小柄な女と、ミオは別人のようだ。ドミトリーは僕の隣の部屋から出てきた小柄な女を追ってきて、僕とミオがコンビニでタバコを吸っているところを目撃している。でも、僕は隣の部屋に居る人物を区別できていない。何人出入りしているかさえ分からないんだ。

「ところで何人出入りしてるんだ」

深夜にカップ焼きそばを食べている僕を覗き込むようにイワノビッチが話しかけてくる。

「それにレトルトのカレーをかけると、最高にうまいんだぜ」

ドミトリーはそう言いながら、ニヤついた目をして僕の隣に座る。

「どうすりゃいいのさ。カレーをかけてチンするの」

「今はチンするカレーがあるだろう」

「そうか」

「それより、さっきの返事を聞きたいんだが」

「さっきのって」

「隣人の話だよ」

「ひとりじゃないの」

「住んでる人間じゃない。出入りしている人間だ」

「俺は二人は知ってる。この前、話したろう」

「そんなの分からないよ。すっと聞き耳立ててるわけじゃないし。聞き分けられるくらいはっきり聞こえるわけでもない」

「でも、漏れてるんだろう。興奮するじゃねえか」

「そんなことばかり考えてたら、頭がおかしくなっちゃうよ」

「いいじゃないか、狂おしいほどに」

僕は残っていた焼きそばを掻き込んで立ち上がった。そして、焼きそばの容器をゴミ箱に放り込んで、店を出る。そして外の灰皿のところに行って、タバコに火をつける。ドミトリーが僕を後を追ってきた。

「俺、知ってるんだぜ。あの部屋が何の部屋なのか」

 ドミトリーはタバコをくわえたまま、僕を見ている。

「何の部屋なんだい。僕は知らないんだ」

ドミトリーはタバコに火をつけて、大きく煙を吐き出した。

「ふーん。隣にも聞こえてるはずだって言ってたぜ」

「誰が言ったんだ。小柄な子」

「いいや大きい方だ。ぴっちりした服が張り裂けそうな女のほうだよ」

「この前言ってた、大柄な子だろう。でも、僕はその子を見たことがないんだ」

「本当か。気になって仕方ねえだろう。俺だったら我慢できねえな」

「こんにちは、楽しそうだね。火、貸してくれるかな」

突然ミオが現れて、イワノビッチに話しかける。イワノビッチは一瞬表情を変えて、ミオを見た。

「ねえ、何の話してたの」

「つまんない話だよ」

ドミトリーはライターの火をミオの前にかざした。ミオはその火にタバコの先を近づけ自分のタバコに火をつけて、僕を見た。僕もミオの目を見る。

「そうなんだ」

そう言ってミオは煙を空に吐き出した。

「それじゃ、ごゆっくり」

ドミトリーが僕とミオから離れていく。

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