「タバコ吸うかい」

 ドミトリーが僕を見て言った。

「貰おうかな」

 ドミトリーがタバコのボックスケースのフタを開けた。

 僕はボックスケースからタバコを一本取り出した。そしてタバコを口にくわえて、ポケットから出した100円ライターで火をつけた。

「持ってるのかい」

「この前会えなかったときに、タバコと一緒に買っちまった」

「やっちまったか」

「そういや、ずいぶん親しげに話してたな」

「えっ、何のこと」

「タバコ友だちのことだよ、俺以外の」

 イワノビッチはニヤリと笑う。

「それも女の」

「見てたのか」

「イートインで弁当食ってた」

「声かけてくれればよかったのに」

「その前に、イソイソ帰って行ったじゃないか」

「どこの女なんだ」

「たまたまここで知り合ったんだよ」

「あんたの言う通り、タバコ友だちだよ」

「そうかい。あんたも運がいい」

「俺はそんな女に当たったためしがない」

「そういや、お前のお隣さん。お前が来る前に歩いて行ったぞ。急ぎ足で」

「へえ、そうなんだ」

「あんた追いかけていくのかと思ったよ」

「そしたら、別のところで女と話してる」

「2回目だったから。あの時が」

「それはどうも」

「向こうから話しかけてきたんだ」

「自販機は珍しいって」

 イワノビッチは2本目のタバコを吸い始める。

「タバコ買ってくるよ、僕も」

 僕はコンビニの入り口に歩いて行く。

「そうかい。そういや、あのあとまたお隣さんを見かけたんだ」

 イワノビッチは僕の背中にそう告げた。

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