ゆっくりと、コンビニに向かって歩いて行く。ドミトリーも会ってしまったのか。少し前にドアが開いて、彼女は部屋を出たようだ。若干間をおいて、僕も外に出てみた。上から通りの方を見たけれど、もうすでに彼女はいなかった。TVの音に紛れて、彼女の喘ぎ声が聞こえた。テレビの音が消えてから、何やらドタバタしてすぐに部屋を出たようだ。

 コンビニを通りかかると、彼女がタバコを吸っていた。飲み物の自販機に近づくふりをして、灰皿の近くまで歩いて行く。僕は自販機を眺めながら、出がけに引っ掛けてきたパーカーのポケットを探った。そしてお金もタバコも忘れてきたことに気づく。やっちまったかと思って顔を上げると、彼女がこっちを見ていた。どうしていいか分からず、作り笑いをして間を持たせようとする。もちろん、間が持つわけがない。

「珍しいですよね」

「えっ」

 僕は彼女の発した言葉に反応できない。

「外に自販機があるコンビニ」

 彼女が僕を見て微かにほほ笑んだ。

「たしかにそうですね」

 僕はまだパーカーのポケットを探ったまま。

「よかったら」

 彼女は僕に赤いマルボロを差し出した。

「すいません。慌てていたわけでもないのですが、お金もタバコも忘れちゃって」

「かまいませんよ。どうぞ」

 僕は、タバコを一本取り出して口にくわえた。彼女は絶妙なタイミングでジッポーの火をつけた。

「ありがとう」

 僕は、タバコに火をつけて、煙を大きく吸い込み、ゆっくりと吐き出した。

「美味しそうに吸いますね」

「そうですか」

「そうです」

 僕と彼女はお互いを見て笑った。ごく自然に。

「これから帰りますよね」

 彼女が僕を見た。

「お金を取りに帰らないと」

「そうですね」

「あたしも帰りますから、一緒に帰りましょう」

 僕は思わず、彼女の顔を見てしまう。

「お隣さんですよね。たまに見かけます」

「お仕事の帰りですか」

「そうですよ」

 ということは、さっき部屋を出て行ったのって。

「どうしました」

「いやなんでも」

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