壁に寄りかかって、少しウトウトしてしまったようだ。疲れているのだろうか。今日は少しだけ部屋の片づけをした。というのも明日はゴミの日で、といっても毎回ゴミを出しているわけではない。そもそも、一人暮らしではそんなにゴミが出るものでもないし、できるだけゴミを出さないようにしている。そろそろ限界だった。このラインを越えてしまうと収拾がつかなくなる。

 そして僕は、寄りかかっていた壁の振動を感じてハッと目覚めた。隣の部屋のドアが開いた。どうやら帰ってきたようだ。話し声が聞こえる。誰かと話しているのか。それとも独り言だろうか。なにやらブツブツ呟いているようにも聞こえる。もしかすると、帰宅したのではなく、侵入者なんだろうか。聞き耳を立てていると、TVの深夜番組の音声が聞こえた。かなり珍しい。昼も夜もTVの音らしいものが聞こえないので、TVは持っていないのかと思っていた。

「男でも訪ねてきたのかな」

「男の声が聞こえたのか」

「聞こえなかったけど」

「でも、その後テレビの音が大きくて」

「訪問者だとしても、それは女だよ」

「TVの音は間違いなく、カモフラージュだ」

「それじゃやっぱり」

 イワノビッチはその後の僕の言葉を手で制した。

「いいんだよ」

「野暮な想像はしないこと」

 イワノビッチのニヤけた笑い。

 僕は慌てて、まわりを見る。今日は珍しくイートイン・コーナーが空いていた。イワノビッチは熱そうなおでんをうまそうに食べている。

「いい女じゃないか。ちょっと小柄だが」

「見たのか」

「あんたが、じれったくてな。ちょうどいい、あんたに似合ってる」

 イワノビッチは僕をじっと見ている。

「彼女にもそんな目で見たのか」

「まさか、あんたには迷惑かけないよ。陰の方からこっそりとね」

「いつ見たんだ」

「実を言うと、偶然なんだ。たまたますれ違って、いい女だと思って振り返ったら、あんたのアパートのほうに歩いて行くから」

「あれは会社帰りだね」

「ところで、あんたは隣の住人を確かめなかったのかい。チャンスだったのに」

「TVの音がうるさくて、耳を塞いでいたら寝ちゃってて」

「朝起きてからは、ドアの音は聞こえなかった」

「あんた、おでん食ってもいいんだぜ」

「僕は猫舌でね」

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