第60話 学校を辞めて以来メンタルが不安定な俺は、過去の自分に嫉妬している事に気付きました。
「いーから話してみんさいよ? そんでどー考えても面倒そうだったり、アンタ達にとってアタシらがメーワクそうなら別に首突っ込まないし、……ね?」
俺を怒鳴って黙らせたマーシャルは、そう言いながらオオカミに詰め寄り、力強く微笑む。その姿が少し眩しくて、少しうざったい。
うーん、なんだろうこのソワソワする感じ。
「……わかりました」
卍卍卍
「……ふーん、なるほどねー」
「アニキぃ」
「……ふっ」
話を聞き終えたガル太郎は涙ぐみ、ケーちゃんはニヤリと微笑み、マーシャルは拗ねたように少し口を尖らせて独りごちる。
俺たちはあれからフェンリルの村の集会所に通され、話を聞いていた。
このオオカミのネーちゃん(カナイって名前らしい)が言うには、このフェンリルの村には多額の借金があるらしい。
寿命が長く子供が産まれにくいフェンリル族は、収入も少なく村を維持していくのが大変らしい。
それでもフェンリルの奴らはなんとか頑張って村を切り盛りしていたらしいのだが、去年起こった大地震で村は半崩壊。
元々ギリギリの経済状況でやってた村のフェンリル達はそれでも村を再興しようと木を集め、食料を集めていたのだが時は災害時。
いつもより遠くまで資材を集めに遠征したのが運の尽きで、木を勝手に採取するのが法的に禁止された地域の木を知らずに取ってしまう。
そして多額の罰金を国家から請求され、それを払う為にとある組織に多額の借金をしてしまったとのこと。
そしてその借金は金利が高く、この一年必死で働いても全然減らない。
そしてついこの間、金主から『直ぐに借金を返さなければ村の土地を売り渡してもらう』と言われたらしい。
「ヤクザじゃねーか」
いやその手口漫画で読んだことあるよ、地上げってやつだ。
「ヤクザって何?」
マーシャルが不思議そうに聞いてくる。
「え、お前ヤクザ知らねーのか?」
俺の言葉にマーシャルはこくこくとうなづく。
マジかよ流石生粋のお嬢。
「ヤクザってのはな、賭け事とか金貸で生計を立ててて、下手を打ったらお詫びに自分の小指を切り落として差し出す恐ろしい集団だよ」
「マジで? 怖っ!」
「……コホン、わかって頂けましたか?」
と、そこでカナイは咳払い。いけねぇ、話を逸らしちまった。
「おう、大体わかった、よな?」
言いながらアホな仲間たちを見渡すと、皆一様に頷いている。
ま、そりゃ俺がわかるんなら誰でもわかるか。
「……だから申し訳ありませんが私たちは今、寝ても覚めても金策のことで頭はいっぱいで、貴方達と交流する余裕は無いのです」
そう言うカナイから漏れるため息は、諦めてしまった何かが漏れてるみたいだ。
「……そっか、悪かったな」
数ヶ月前の、トラックに跳ねられる前の俺なら調子こいて『は? 何水くせーこと言ってんだよ? んなもん俺に任しときゃ一発だべ?』なんて言ってん……。
「は? なーに水くさい事言っちゃってんの? そのくらいアタシ達がなんとかしたげるわよ」
得意げに言い切るまーしゃを見て俺はハッとする。
こいつと話していると不自然な時にドキりとしたり、ちょっと意見が食い違っただけで妙にソワソワしたり。
眩しく見えたりバカバカしく見えたり、印象だって定まらない。
なるほど。
こいつはきっと、トラックに轢かれる前の、せっかく手に入れかけたダチをイケイケな自分のせいで失う前の、
……俺なんだ。
〜魔物を殺せない社会不適合者の俺は、ずっとレベル1のままなのになぜか魔物のキングになりました〜 ゆきだるま @yukidarumahaiboru
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