第59話 最近めっきり精神がジジイ化した俺は、またもやウンコ姫を怒らせました。

「すみません、帰って、……頂けませんか?」



 オオカミは毅然として、けれど柔らかく言う。     


「し、しかし」


 そしてケーちゃんは鼻の穴から今にも射精しそうなアホヅラで渾身の『しかし』を吐き出す。空気読めよ。


「……ほら、ケーちゃん、今日は帰ーるべ?」


「……し、しかあいだっ!」


 未練がましく渋るケーちゃんの頭にゲンコツをくれてやる。


「ガキかテメーは! 帰ったらウィン子に絶対現れない時間決めてもらってやるから一人でコイてろこの顔面尿道炎が!」


「……わ、我は犬の世界ではかなりのイケメンなのだが」


「わーかったわかったから帰るぞイケメン尿道炎」


 そしてケーちゃんの首根っこを引っ掴みズルズルと引きずり帰ろろうとすると、ズンズンした足取りでオオカミさんに近づくウンコ姫が見える。


「おい! マーシャル、テメーも帰るぞ!」


 しかし、そんな俺の制止も全く聞かず、マーシャルはオオカミの真前まで行ってしまう。


「……ねぇ、なんか困ってんでしょ?」


 アイツ、また出しゃばりなマネを。


 いや俺もちょっと思ったけどよ。このオオカミのネーちゃんなんか目ぇ死んでるし、俺らを早く返したくて仕方ないっていう焦り? みてーのも感じるし。


「……別にそんなことはありません、我々が貴方達と交流するメリットがないというだけのことです」


 オオカミのネーちゃんは冷たい感じで吐き捨てるように言う。


 うーん、ビンゴだね。ワケありだ。……けど。


「おい! オオカミさん困っちゃってんだろーが?」


 隠そうとするってことは触れられたくないってこと。


 助けられたくねー奴を助けようとするってなぁ唯の自己満足。


 正義の味方ごっこのオナニー活動のオカズに、リアル困ってる奴を使うのは筋違いだ。



 しかしマーシャルはまるで俺の声なんて聞こえちゃいないかのように、腰に手を当て一層イキった感じで言う。


「ねぇ、アタシはマルソウ王国王女のマーシャルなのよ? そしてあそこでギャーギャー騒いでるならず者は、こないだ“初心者ダンジョン”を滅ぼした男よ! スケベだけど冥界の番犬もいるし!」


 その言葉にケーちゃんは焦ったように言う。


「な! わ、我は決してスケベではなく、女性の事を性的な対象で見たことなどなく、股間に君臨せし我が分身は完全に排尿のための……」


 ケーちゃん……、かっこわりぃ。


「……だから、アタシ達って割と頼りになるとおもうんだけど?」


 そしてマーシャルは『フフン』と挑戦的な笑みを向ける。


 ……うーん。


 対するオオカミさんは一瞬、


「……えっ、と」


 とたじろいでから言う。


「べ、別に貴方達が頼りになるとかならないと言う話ではありません、別に我々はトラブルなど抱えてはおりませんし、貴方達と交流するつもりもありません」


「ふーん、さっきピクッてなったくせにぃ」


 マーシャルにジーっと顔を近づけられると、オオカミは少し引きつった顔をする。


 ほらぁ、困ってんじゃねーかよ。断りにくいんだってよ、善意の人の申し出ってなぁよ。俺ぁそれで何度も怒られたぜ。


「そ、それは一国の王女が訪ねてきたとなれば驚きもするでしょう」


 とは言うもののこのネーちゃんの態度からは、王女だと言うことがわかってビビってるって感じはしない。


 何を言われても動じない、氷の女って感じ。


 ……こいつの方が王女っぽいな。


「アヤシーわね」


 マーシャルが訝しげにオオカミに詰め寄るのを引っ剥がす。


「……もうやめろって」


 いい加減面倒くさくなった俺は強めにマーシャルを引っ張ってしまう。


「……っさいなぁ」


 あちゃあ。引っ張った肩越しからでもわかる、絞り出すような不機嫌声。


「……アンタ、ウザイんだって」


「けど、お前オオカミさんが困って……」


「うるさいっての!」


 俺がそう言った瞬間、マーシャルは強く怒鳴る。


 ……なんなんだよ。


 

 





 






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