第34話 龍

フッと煙のように姿を消してしまった勇者。


残された俺はというと、その場に尻餅をつく足場も無く、万歳ポーズで空中に背中を預けてしまった。


「お疲れ様でした。まだ最初だから仕方ないけど、次は戦うことになるだろうから頑張ってね?」


「は。はいぃ・・・・・・」


そのまま近くの砂場に降ろしてもらった。


勇者の衝撃波で、クレーターができている。そこに勢い良く砂が流れ落ちていて、ちょっと神秘的だ。


「君、これからどうするの?」


「どうしましょうかね。とりあえず、ここはどこですか?」


「グランドベル王国の、少し外かな。方角的には、あっちに山が見えるでしょう?そこを超えれば関所があるよー」


「うわっ。遠そう」


山と言っても、蜃気楼で少し大きく見えている。実際はもっと離れていそうだった。


「でも、今グランドベル王国では、王女が行方不明ってことになっててね、それで攻めてくるやつもいるわけ」


「アイシャが行方不明!?」


「今はもう、戻っているんじゃないかな?魔力を感じるよ。さっきも声、聞こえたでしょう?」


「あ・・・・・・そっか」


魔法だったのかよくわからないけど、アイシャの声はちゃんと届いていた。どうやら、ルナ様にも聞こえていたみたい。


あとは頑張ってアイシャに会いにいくだけだな!


「ちょっと・・・まさか今攻められているのに関所から行こうとしてる?」


「え?そのつもりですけど」


「加護無しで砂漠スタートは大変そうだね。護衛とか、いる?」


「護衛、つけてくれるんですか?」


ルナ様の提案は嬉しい。


俺が勇者になるとして、俺だけに肩入れするのは不公平なのだろうと推測した。


「女の子にすると、アイシャが可哀想ね。男の子をつけてあげる」


そう言ったルナ様の隣に水柱が立つ。その中から姿を現したのは、耳の尖った緑色の髪の男だった。


ーーー※



「大丈夫」


ハルト様に届くように、ハートリーダーを出来るだけ遠くに飛ばすように魔力を幾重にも練って飛ばしました。


だいぶ、魔力を消費しています。


その間にも、ボディ子さんがわたしの前に立って拘束の魔法を跳ね返しています。


「アイシャ様、貴方が馬鹿で助かりました」


カツンと杖をつきながらムエルが地面を叩くと、今度は光を帯びた天使達が弓を構えてボディ子さんを射抜きます。


宮廷魔道士、紫光のムエルは、グランドベル王国随一の実力を持っています。それでもまだボディ子さんに本気を出していない様子。


本気の実力なら、先程から使ってる光魔法では無く、闇魔法で無抵抗のまま、殺してしまうでしょうから。


「なんか、力抜けるね。ちょっと体力吸われたかな?」


ボディ子さんへのダメージは軽微。それでも、盾になってもらっていることに罪悪感があります。ありがとうございます、ボディ子さん。


「ムエル。あなたと争いたくありません」


「それならば、異世界に行くのは金輪際、やめてもらえませんか?」


「もう、わたしは成人しました。自分の進む道は自分で決めます」


「それが、貴方の答えですね?」


ムエルの顔が歪む。その奥にいる、お父様の顔も霞むくらいに、怒りに満ちた表情。


確かに、わたしは今まで色んな人に守られて来ました。お父様にも、ムエルにも。城のみんなにも・・・・・・そして、この国の人たちにも愛されました。国から出れば魔女と畏れられたけれど。





「待て、この魔力は・・・?」


お父様が口を開き、そして魔力を感じ取ったわたしはブルっと体を震わせました。


まずい、です!


「・・・ボディ子さん、ドラゴンが来ます!」


「なんだって!?」


「総員、防御魔法展開!!魔素が掻き切れるまで全力でやれ!!」






「グガアアアアアアア!!」


城中に、いや、この国中に響く声を持つ主。


金色のドラゴンが、ステンドグラスを突き破って侵入して来たのです!

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