第33話 間にあるもの

どうすればいい?


アイシャの声が確かに届いて、冷静になる。


まだ、俺はアイシャに会えていない。


会えるまでは、死ねない。


「ルナ様よ、俺を王女さんのところに飛ばしてくれますか?」


火柱と水柱。イメージ的に炎が負けそうな感じがするのだが、勇者の放つ炎が衰えない。それをぱしゃぱしゃと相殺していくルナ様も相当すごいのだが。


水のベールに包まれながら、花火を見ているようだ。


「ふーん。君はもう、王女様に一途ってことかー」


「茶化さないでくださいよ」


「あはー、良いね、そんな道もアリじゃない?でもごめん。君を飛ばすことはできないんだぁ。わたしにできることは、今君を死なせないことだけ。力をもらえてないから、タイミング悪かったんだね。それとも戦う覚悟が足りなかったのかな?」


「どちらも当てはまります」


「正直でよろしい。なら、次はちゃんとするべきだよ。どちらかというと、今、なんだけどね」


水飛沫が上がり、空に幾重もの虹がかかる。その光景に見惚れてしまいそうだが、急接近してくるやつがいた。勇者だ。


「埒が開かねぇ。邪魔すんなよ、女神」


「くすくす。怒ってるんですか?元はと言えば、あなたが悪いんですよ?」


「甲斐性無しとか言いてぇのかぁ?」


勇者のパンチがルナ様の前で弾かれる。何か見えない壁があるかのように、勇者の攻撃はルナ様に通らない。


何の話をしてるんだろうか?甲斐性?


そういえば、こいつはアイシャを傷つけたやつなんだよな?


「お?」


気づいたら、俺は勇者を睨みつけていた。


「へぇ、そんな顔もできんじゃん?それでさぁ、おまえ、何しにきたの?」


ズガアアアアン!!


勇者の周りから衝撃波が伝わり、足場が崩れ去った。


落ちちゃう!って焦るとこなんだけど、そこは考えなかった。


こんなやつに。アイシャを泣かせたやつに負けたくないから。


「俺が弱いうちに潰すとか、ダサいだろ?」


「あ?」


勇者の目に、明らかな怒りが見える。


「俺もおまえみたいに強くなってから、勝負するってのはどうだ?」


「あっ、それ賛成でーす」


ルナ様の言い方軽すぎかよ。


しかも、せっかく意を決して言ったのに、肝心の勇者が俺をもう見てない。ルナ様を見てる。


「別に君たちのどちらに味方するわけじゃないんだけど・・・平等って難しいね?」


「一旦引けってことか?」


「うん、まぁ、そーゆーことで」


「おい」


「なんだ?」


「王女に伝えておけ。立場を考えろ、と。俺は常に、役目を果たしている」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る