第31話 家に帰っても。まだ。

神々しきステンドガラスと、光が差し込む空への吹き抜け。


ここは、教会ではありません。赤い絨毯の先に、王が座る椅子があり、周りは紫の兜を取った兵士に囲まれています。


帰ってきました。わたしのいた、グランドベル王国の王城です。


「ふんっ!」


ぴきぃん!!


ボディ子さんに抱えられたまま、光が上から下に通り過ぎていきます。


その輪っかがボディ子さんのお腹あたりを縛りつけようとしますが、ボディ子さんの鍛えた肉体が、それを悉く破壊します。


「お父様!ひどいです!お友達なのにっ!」


「案ずるな。関所と似たようなことをしているだけだろう」


「・・・まさか、わたしより高いレベルにいるなんて・・・どうされますか?」


魔法騎士団、団長である、ムエルがお父様に指示を仰いでいます。


わたしを捕まえる気は無いにしろ、外界からの客に対して魔法で身動きを取れなくするのはあんまりではないですか!?


「ムエル、聞いてください。この方はわたしの友人です。どうか、手荒な真似だけは・・・」


「だとしても、ですよ。この忠犬は強い意志でこちらの捕縛を阻んでいます。つまり、誰かに操られている刺客、という可能性があります」


「忠犬、かぁ・・・やっぱりそう思っちゃう?わたし、先輩のワンコだったんだぁ」


何度ムエルがボディ子さんを捕まえようとしても、光の輪っかは砕け散ります。サイコバインドは自分より精神力の低い者を縛り付けてしまう魔法です。


「信じられない。・・・わたしの忠誠心、落低すぎ?それとも怠けすぎ?」


「そうやってすぐ、あなたたちは力を推し量ろうとする。この国は、平和な国では無かったのですか?恐怖を心に留めて、会話をしなさい」


「考えてること読めちゃうアイシャ様に言われてもなー。あと、今絶賛戦争中です。貴方のせいですよ?」


カツン、とムエルが杖で床を叩くと、黒い渦巻きが床いっぱいに広がる。そこに雫を垂らすと、水面のように何かを映す媒体となった。


山岳地帯より先の砂漠?


そこにはたくさんの兵士、そして、砂塵を抜けて出てきたのは黒い髪。


は、ハルト様だっ!


「勇者と戦闘中です。敵の将軍と入れ替えました。この方を助けて欲しければ、無駄な抵抗はやめてください。話が進みません」


ムエルの華奢な体がよろめいた。お父様は空間転移を使えない。だから、ムエルが持てる魔力をほとんど使って穴を作ったんですね?


「ハルト様も、こちらに飛ばしてくれれば良かったのに」


肩で息をする青のローブのムエルは、顔に苦笑いを浮かべています。


「我儘が過ぎますよ。わたしが飛ばせるのは、3人まで。4人目からは誰かが代役になってもらわなければなりません」


「ボディ子とやら、おまえの主に勝ち目は無い。勇者はその気になれば、一思いに殺してしまうだろう」


「そうやって、先輩がピンチになる状況を作って、アイシャちゃんを諦めてもらう算段ですかね?」


「お父様っっ!!」


「仕方が無いだろう。アイシャを安全に飛ばすのだけで精一杯だった。父として、おまえを第一に考えるのは当たり前のことだ」


また、諭されようとしています。正解半分、嘘半分というところでしょうか。


ハートリーダーが、お父様の心の声を拾います。


『ギリギリのところだったと説明しなければ、アイシャは納得してくれない』


「・・・嘘つき」


「嘘などついていない」


「お父様とお母様の心だけは、読まないように努めてきました。・・・読んでも良いことなんて、無いと思っていたからです」


「・・・・・・」


心と口を、閉ざしましたね?


わたしはとても面倒な娘なのでしょう。わたしと話す時は、心の底からの言葉はないのでしょうね。


「なるほどね。アイシャちゃんの気持ち、なんとなくわかるよ?」


「ボディ子さん?」


「アイシャちゃん。みんな、アイシャちゃんを微妙に怖がってるのがわかる。腫れ物を扱う、じゃないけど、いつまでも子供のままでいてほしいと願ってるみたいに・・・」


周りを見渡します。


城のみなさん、みんな、わたしから目を逸らすんです。心を読まれたくないからでしょう。


別に目を逸らしても意味が無いのに。


「先輩を助けにいきたいなぁ。アイシャちゃん、どうにかできる?」


ボディ子さんの問いかけ。


こちらを見てくるお父様とムエルと、ボディ子さんを見て、わたしは決断しなければならない。


いつの間にか、わたしは周りの魔力を吸い込んでいたのでした。

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