第29話 邂逅
隣国から国境付近に流れる軍を見て、俺は空を飛ぶスピードを上げる。
敵の親玉さえぶっ倒せばいい。そうすれば、まだこの戦争は止まる。
総大将が自ら出てくることは少ない。なぜなら、俺の勇者としてのチートさがあって、やろうと思えば独力で蹂躙できるからだ。
グランドベル王国は戦力が揃ってる。それでもなぜ、こいつらが攻めてくるかと言えば、やっぱり王女さんの心を読める部分がでかい。作戦も思考回路も全部読まれるのであれば、銃の跳弾が当たってしまう確率ーーーようは、奇跡が起こるのを待つしかないのだ。
王国は大分平和ボケをしてるみたいで、民を守ることを優先している。つまり、カイル・グランドベルは結界を保つために、自分の力を二分しているわけだ。効率が悪くてうんざりする。俺だったら、一撃で仕留めて敵軍を瓦解させて終わりなのにな。
最後尾が見えた。デカすぎるマグマエレファントに乗ってるやつが総大将だろう。偉そうな冠をかぶっている。見た目の図体のでかさがある割に、こっちを見据える目に恐れが見える。
とりあえず火の玉でもぶっ放そうかな、と考えた次の瞬間に、象の背中が光に包まれた。囲って行軍してる兵士たちが慌てふためいている。俺も、突然のことで何が起こったかがさっぱりわからねぇ。
だが、光が収まって現れたのは、象の背中に手をぶらんと脱力してノビてる男だった。
「は?日本人!?」
黒髪でお洒落な服装だ。襟のついたシャツなんてこの世界じゃあ着てるやつがいない。
「あ、アイシャああ!?」
飛び起きたそいつは周りを見渡す。今、アイシャって言ったな?あの王女様、城の魔法陣で日本に行って、何してきやがったんだ?
「へぇ、もうひとりの日本人、ね」
巻き込まれただろうそいつを見て、俺は口角が上がるのを抑え切れずにいた。
「よう、日本人。名を名乗れよ」
先程の総大将とは違う、肝が据わった目つき。
その日本人は狼狽えることなく、俺を睨みつけてその視線を外さなかった。
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