第27話 知ろうとしてくれる人


涙の粒が浮かび上がって暗闇に消えて行く。


お父様には、伝わらなかった。わかっています。独りよがりだって。わかっています。ハルト様に迷惑をかけてるって。


そして今、ボディ子さんにも。


ぎゅっ。


「ボディ子、さん?」


「大丈夫。絶対守るから」


暗闇の中、もう落ちている感覚すら遠く感じていて、自分たちがどうなるかもわからない状況です。


それでも、ボディ子さんはそう言ってわたしを励ましてくれました。


「わたしは、あなたがどこの誰だか知らない。でも、それでも、先輩を救ってくれて、ありがとね」


「わたしがハルト様を救ってる?」


「見せてあげたかったな。アイシャちゃんに出逢う前の、先輩の顔」


そんなにひどかったんでしょうか?


「わたしじゃ、救えなかったから」


ボディ子さんはハルト様のこと、好きだったのでしょうか?ハートリーダー使おうと思い、でも、ボディ子さんに失礼だと思って咄嗟に止めました。


「ボディ子さんが羨ましいです。ハルト様のボディ子さんに対する信頼が凄くて・・・嫉妬しちゃいます」


「・・・わたしね、大学入ってから、誰とも仲良くなれなかったの。こんなでかい図体に、傷ついた顔。みんな怖がって寄り付かなかったんだ」


「こんなに優しいのに」


「優しいかどうかなんて、見た目じゃわからないじゃん?見た目で随分損してるけど、そこらへんの男に負けないところは気に入ってるつもり。だけどわたしは、友達を作ることを諦めてたの」


「そんな・・・」


「でもね、大学で初めて先輩に声をかけられたの。先輩、何て言ったと思う?」


「えっと・・・」


「あなたみたいな女性を初めて見ました。是非オンリーワンの靴を作らせてください!って・・・失礼なこと言うよね。わたし、開いた口が塞がらなくて、気づけば足のサイズを測ってもらって・・・。靴に対する情熱が凄くて、嵐が来たかと思ったよ」


「羨ましいです。わたしの靴も、作ってほしいな」


「先輩なら、すぐ作ってくれるよ。アイシャちゃんとわたし、お揃いになっちゃうね?」


「今日もずっと履いてたんですか?」


「そうだよ。明るくなったら見せてあげるね」


暗闇で何も見えないので、ボディ子さんの靴を見られなくて残念です。


ぶるっ。


暗闇の向こうから、お父様の怒りが飛んできて、体が震えました。


ボディ子さんは、そんなわたしを優しく抱きしめてくれています。


「そんなこんなで、わたしの大学生活は先輩無しには考えられないの。先輩ぶきっちょだから、ついつい、助けてあげたくなるんだよ」


「ボディ子さんでも、ハルト様を元気にできなかったんですか?」


「んー、わたし、可愛くないし?」


「そんなこと、ないです!」


「ありがとう。アイシャちゃんは、優しいね」


どこか寂しげな声。見た目だけで好意を寄せるのは本当の愛じゃない、と心を読めるわたしは思うのです。


「優しくなんかありません。わたしは魔女と呼ばれていたんですから」


「そんなことわたしは気にしないよ?周りが何を言おうが、わたしが思うアイシャちゃんは、やっぱり優しいなぁ。さっきのアイシャちゃんが、おとうさまに言った言葉、じーんときちゃった」


「ボディ子さん・・・」


暗闇が続く限り、お互いの顔が見えなくても、わたしとボディ子さんは話し続けました。


世界がボディ子さんのように、思いやりのある優しい人で溢れていたら、と考えたりもしました。

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