第21話 アイシャとボディ子は仲がよろしい


自分がボロボロになってまで、相手のことを思うことは必要だろうか?


舞のことを忘れようとすれば、それは俺の大学生活そのものを否定することになる。それでも、いいのだろうか?


「考え事ですか?」


「いや、そういえばおまえもいたな」


「いますけど。なんで忘れられてるんですか」


ボディ子はインパクトのある図体をしている割に、俺の邪魔をしないようにしてくれるタイプだ。必要な時はいてくれて、それ以外はいない。まるで便利屋ポジションなのだが、だからこそ、こいつ主体の大学の思い出など無い。


だって、いつもそばには舞がいたから。


もぞもぞとアイシャが近寄ってきた。いつの間にか起きていて、俺の心でも読んだのだろうか。


「むー」


「また心を読んだか?」


「・・・おっぱいで呼吸困難にしますよ?」


「そんな技どこで覚えたんだよ」


「朝、ハルト様にそれに近いことをしましたよ」


王女らしからぬ顔だ。どうやら、俺が舞のことを考えたのがいけなかったらしい。


ボディ子に視線を送って助けを求めるが、こいつはこいつでアイシャのことしか見ていなかった。


「アイシャちゃん、可愛すぎる」


「ボディ子、俺への恩を忘れたのか」


「アイシャちゃんの味方なので。違う女のこと考えてる先輩が悪い」


「・・・急に吹っ切れてもそれはそれで変だろ?」


「吹っ切れないのは男だけです。女なんて別れて3秒くらいでケロッとしてますよ」


「それってほんとに好きだったのか?」


「ダメだったことをくよくよといつまでも考えて、何になるんですか?」


確かにな。何にもならない。酒に酔いやすくなるだけだ。


「先輩は大学で1番人生の楽しい時を過ごして失った。ただそれだけです。これから先、何倍も長い人生を歩むのに、こんなところで立ち止まってちゃもったいないですよ?ね、アイシャちゃん?」


俺のあぐらをかいている右膝を枕にしているアイシャが、こくこくと首を縦に振る。


おまえ、ほんとにわかってんのか?と心の中でつぶやくと、アイシャも寝たまま首をかしげてみせた。


「ボディ子。アイシャは心が読めるからそのつもりで」


「すごいっ!アイシャちゃん、わたしの考えを当ててみて!」


「えっと・・・『嘘ついちゃうアイシャちゃんもかわいい』ですか?」


「まさかのガチだった!?すごーい!」


さっきからすごいしか言ってないなこいつ。子供に対して有効なのかそれ。


「ボディ子さん、ひとつ質問が、ハルト様がアナザーワ「そろそろ戻るか!」」


危ない危ない。黒歴史暴露はねーよ。


アイシャがまだぽわぽわした寝ぼけまなこだが、開店時間が迫ってる。


「アイシャちゃん、後で女子トークしようね?」


「はいっ!」


止めても無駄か。まぁいいや。ボディ子だし、大学の他のやつらには言わないだろう。


「アイシャちゃんは先輩のどこが好きなの?」


「一途にひとりの女性を想えるところですね」


「え?それが好きなの?」


「尊敬するって意味です。男の人は目移り激しい人が多いので」


「なるほど。なんか大人っぽいこと言うんだね」


そうですか?と見上げるアイシャの頭をボディ子が撫でる。


俺はそんな光景を後ろから眺めていた。

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