第22話 間話 勇者の気まぐれ

俺、原口奏太は異世界で勇者をやってる。今現在、女神と交信中。


「で、アイシャはすやすやと寝てると」


『はい。王女の周りに敵はいませんし、幸せそうにしています』


「それならオッケーだな。まぁとりあえず何かあったら知らせてくれ」


さて、と。


王女失踪から半日が経った。もちろん結婚式は中止。城内はもちろん、街中がパニック状態になっている。


「ソウちゃん、王女様を迎えに行かなくていいの?」


俺の隣で嫁そのいちのエルフが心配そうに顔を覗いてくる。


「アホか。自分のこと嫌いなやつを追っかけて何になる?」


「それ、ソウちゃんが王女様のこと好き、みたいに聞こえるね」


おまえが言ったんだろうが。


「まぁ、どっちにしろ、国王様はもう行ったな」


「え?」


街を魔物から守るための勇者の加護が薄れている。ってことはつまり、国王がこの世界にいない、ということだ。自殺するようなやつじゃないし、自ら娘を連れ戻しに行ったことになる。


「久しぶりに元の世界に帰れる特別令が出るかなーと思ったのに・・・」


まさか国を俺に任せて自分が行くなんてな。


「嫌よ!なんでソウちゃんと離れなきゃいけないの!?」


うるせーな。男は週に一度くらい一人になりたいことがあるんだよ。


「っつーか。魔王と戦うのは了承したが、人間と争うなんて聞いてねーぞ」


『鷹の目』スキルで街からそう遠くない山道を調べると、隣の国の軍隊さんがまぁぞろぞろとおいでなすっている。


「ねぇ、本当に人間と戦うの?」


「あちらさんは相当やる気みたいだ。俺たちで守るしかねーだろ」


他の嫁は連れてきてない。理由は人間同士の戦いに出るのが嫌だから。


「ソウちゃんの第一夫人のわたしがアピールしてみせるから!」


「緊張感ねぇな」


「ねぇ、聞かせて。あの王女のためにあなたがここまでする意味を」


「意味なんてねぇよ」


元の世界の自由な身分を、懐かしく思った俺のーーー


「ーーーただのきまぐれさ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る