第18話 俺のお店にようこそ

「カルカドール:Calcadoll」


俺の店の名前だ。


新店舗を名付けたのは社長。


ポルトガル語と英語の造語で、弾を込める人という意味らしい。


弾と聞いて銃を思う人もいて少々平和な日本に似合わないネーミングなのだが、銃が出回った時、銃の手入れや管理はとても重要な役目で生活の一部になっていたんだとか。


日々身につけるものを作る身として、あなたの手助けをしたい、みたいな願いが込められている。


ちなみにdollの部分は女子受けを良くしたいからこうしたんだとか。


安直だが俺は意外に好きだ。


店の扉を解錠すると、前日に無理やり押し込めたマネキンが倒れそうになる。


「おっとっと。ちょっとこれ、支えててくれるか?」


「はい!わぁ!!!お洋服がいっぱいですね!」


アイシャは目から星を出しそうな勢いで服を眺めている。可愛い。


そんなに喜んでくれるとこっちまで嬉しくなってくる。やっぱりアイシャの笑顔は良いね!


ポストの郵便物を片付けした後、アイシャが支えていたマネキンを抱えて店の前に並べていく。


「お手紙がこんなに・・・人気者ですね」


「大体は捨ててもいいやつだけどね」


ぽかーんとするアイシャ。あ、ちょっと期待はずれだったかな。


「何かお手伝いをすることはありますか?」


話題を変えてくれるあたりは優しいなぁと思う。


積極的に手伝ってくれるのは嬉しい。そうだ、女性服のディスプレイを見てもらおう。


「ちょっと待ってて」


そうアイシャに言って、まだ時間は早いけどお店の明かりをつける。


レジ側に所狭しと置かれている女性服マネキンを店の中央に持っていく。


「ストールを巻きたいんだけど、アイシャが納得のいく巻き方を試してみてほしいんだ」


「ストール?」


アイシャは俺が持ってきた青地で清涼感のある夏用ストールを見て首をかしげる。


「これを巻けば、いいんですか?」


なんとも納得していない表情である。


これは見本を見せたほうがいいな。


「えっと・・・首元を隠す感じにこうして・・・」


「ふむふむ」


「できたっ!ニューヨーク巻き」


アイシャをモデルにしたら、OLさん志向をぶち壊しちゃって帰国子女みたいになった。金髪に似合うように格好良くいかないとね!


「なるほどー。首を完全に覆ってはいけないんですね?」


「別にそういうわけでもないよ。クーラーから首元を守りたい人はいるし」


最近は夏場のちょっとした冷気を受けないようにストールを巻く女性が増えている。


「クーラー?」


「温度を変える機械のことだよ」


そう言って空調をつけてみる。天井の羽が回り出して涼しい風が頭上から降り始めた。


「便利ですね。国に持ち帰りたいくらいです」


そっか。王女だもんね。自分の国が豊かになるのを考えるのは偉いなぁ。


あっ、とアイシャが一瞬困ったような顔をする。


「ごめんなさい、失言でした」


多分アイシャに心を読まれたんだけど、俺は笑って誤魔化すことにした。


アイシャが、国に帰る?


いや、そんなことより開店準備をしよう。あれ?終わっちゃった。あはは。


時刻は十時半過ぎ。天気は良いからお客さんがふらっと立ち寄るには絶好の機会だ。


俺の気分で早めに開店しても良いけど、毎日この時間に開いてるって勘違いされても困るからまだクローズのままにしとく。


マネキンにストールを当てながら考えてるアイシャを見るのはなんだか微笑ましいし、絵になる。


「どうかしましたか?」


俺の視線を感じたんだろう。アイシャがこっちを見て言う。


その質問をするってことはハートリーダーは使ってないんだろうな。


「いや、アイシャが可愛くって」


ばっとアイシャの顔が赤くなる。わかりやすっ!


「ハ、ハルト様は、そういうことを自然に言っちゃえる人なんですね。貴族みたいです」


「お洒落な店には可愛い女の子が必要だからね」


「むぅ・・・そういうことを聞きたいんじゃないんです」


膨れるアイシャさん、まだまだ年相応ですなぁ。


こんな些細なやりとりでも、俺はすごく幸せな気持ちになってしまう。


ありがとう、アイシャのおかげだ。と心の中で言っておく。


瞬間。マネキンに向かっていたアイシャの手がピタッと止まり、もじもじしだす。


「ちょっ、・・・そういうことは直接言ってくれると助かります」


「わかりづれーよ」


ハートリーダーをさらっと使い出すのやめてくれないかな。まぁ無理だろうなぁ。

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