第16話 15


めっちゃ泣いて俺はスッキリしたのだが、アイシャのパジャマがおっぱいの部分だけすっかり濡れてしまった。


着替えさせなきゃならない。アイシャはお姫様だから、全く動こうとしない。


「昨日の服でいいか?」


「はい!お願いします!」


リュウが来たために急いで着せたパジャマを脱がして、俺は昨日の服を着せる。


なんという役得!!


アイシャは一人じゃ生きられない。だから、俺がしっかりしなきゃダメだ。


でも、色々と困るだろうから、着替えくらい、自分でしてほしいな。ボディ子にでも頼むか。


つーか、なんちゅう細い足してんだよ。見てるだけで興奮してしまう。


あとでアイシャに、裸厚底靴頼もうかな?


「ハルト様、お腹空きました」


早く着替えさせろとの姫の命令です。俺は従うまでです。


それにしても、泣いてスッキリした後は世界が以前と違う気がする。


具体的に言うと、昨日まであまり食欲が無かったのだが、今はガッツリ食べたい!


「朝は牛丼にするか」


「ぎゅうどん・・・?」


働くには一杯食べてからってね。


俺はちゃっちゃと着替えると車を走らせた。



ーーー


平日朝の牛丼屋に女性はいない。


いたとしても家族連れだし、お持ち帰りの買い出しに来るくらいだし。だからアイシャの姿はかなり目立った。


「おーおー、みんな見てるわ」


「女性が珍しいのでしょうか?」


おかしな事に、今日の俺は女を連れている。いつもはカウンターに座るそっち側の人間なのだがな。裏切ってごめんよ。


牛丼の匂い立ち込めるムンムン男だけの肉食会に金髪の絶世の美女がひとり。


周りの客が朝から何を考えるのは明白で、アイシャは侮蔑の表情を惜しげもなく出す。


「・・・ケダモノ」


アイシャの視線で慌てて顔を伏せるやつ、顔をニヤニヤさせるやつ、と俺でも何考えてるかわかるようなわかりやすい反応をするやつが多い。


「アイシャさんや、人の心を読むのはやめたほうがいいんじゃない?」


「一種の癖みたいなものです。安全確保のためなのですが、これをしないと落ち着かないので」


まぁ敵に囲まれて食事をするのは嫌だよね。悪意のあるやつはいくらでもいるからな。


「牛丼並盛り二つで」


「か、かしこまりましたッ」


店員もアイシャに釘付けだし。


まぁ格好がお忍びの芸能人とかではなく、本気の職人様が選んだ(おそらくデート用の)格好だ。朝から野郎共には眩しくて仕方がないはずだ。


「この木で食べるのですね?」


そういって割り箸を手に取るアイシャ。周りの真似っこして割るところまではオッケーなのだが、持ち方がぎこちない。親指と人差し指で箸を挟んじゃう感じが初々しい。


言っておくが俺は使い回しの箸が嫌いだ。だから行くなら割り箸がある店が良い。使い捨てだから不潔ではない。エコでもないがな。


お好み焼き屋で箸入れの中が油でドロドロしてたから、トラウマになっただけなんだけどね。


「アイシャ、スプーンがあるからこっちにしたら?」


スプーンも使い捨てにならないかな。


「あ、すみません。やっぱり慣れてるもので頂きましょう。・・・随分と細いスプーンですね」


そう言ってスプーンを先に並べてしまうアイシャ。


あっ、そうか。食事前に食器を並べて準備するのね。


なんだか急かしてるみたいで店員に申し訳ない気持ちになったが、いつも注文から調理まで一人で戦っている店員のスピードが、なぜか今日はいつもの二倍ぐらい速い気がする。


「牛丼並盛りお持ちしましたッ!」


この店員、明らかにアイシャをガン見して・・・っておい、何おまえ手渡ししようとしてんだ、そのままテーブルに置け。置けって!


俺の無言の圧力が店員に通じたのか、店員はおとなしくテーブルに牛丼を置いた。


「ハルト様、どうしたんですか?顔が怖いですよ?」


「あー、ごめんごめん。それじゃあ食べようか。いただきます」


「板抱きしめます?」


なにそれ痛そう。


口元の前で手を合わせるアイシャは可愛かった。


「うめぇ・・・」


いつもなら無言で食うのに、思わず言葉が漏れた。


なんか久しぶりにちゃんと米食った気がする。


「んん〜〜〜!!」


対面のアイシャさんは美味すぎるようで、頬に手を添えて唸ってます。


美味しそうに食べるなぁ。


食べてる時に決して言葉を出そうとしないあたりが上品だなって思うけど。


あっ、ほっぺにごはんつぶついてるから後でとってあげよう。


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