第13話 12

ーーー寝苦しいから触らないで


うっせーぞ舞、今は静かに遅刻ギリギリまで惰眠をだな・・・


ーーー触らないでって言ってるでしょ、変態!


あれ、俺なんで舞と寝てるんだっけ・・・?




ーーー


なぜ人は一人で生きられないんだろう。ぽっかりと自分の隣にスペースができるくらい、人はいつでも二人になる準備をしている。


久々に夢を見た。こんな夢精しそうな夢は久々である。欲求不満もここまで来ると潔い。


まだ舞のこと、好きなのかよ、って盛大に自分自身に対して溜息を放ち、状況を確認する。


昨日は確か姫様と文字通り寝たんだっけかな。寝ただけだよね、うん。その通りであってほしい。


多分この目の前の長い髪が舞を連想させたんだと思う。金髪、綺麗だなー。


ーーーって、なんで俺の左手はアイシャのお尻に触れてるんですかねぇ!!


ビクッと俺の手が柔らかい尻肉から離れる。できればまだ寝ていてほしいなーと願いながら。


「ハルト様、おはよう・・・ございます」


そんなことなかったーーー!


背中を向けていたアイシャがくるりとこちらを向いてきた。


「ご、ごめん。俺抱き枕が無いと寝れなくてさ!」


なんつー女子的な言い訳をしてんだ俺はッ!


少し恥ずかしそうに目を逸らしながら顔を赤らめるお姫様。


こんなやりとり、久しぶりで楽しいなぁと感じる。


ーーー瞬間、ほろっと水が頬をつたう。


「あれ・・・?」


なんで泣いてんだ俺?


顔を真っ赤にしていたアイシャも俺が心配なご様子に早変わり。ちょっと待って、俺の理解が追いついてない。どうして今泣くんだよ。


振られた時だって泣かなかったのに。


テンパってつい拒絶の意思表示をした俺の右手をかいくぐり、アイシャは顔を近づけてきた。


アイシャは吸い込まれそうな瞳で俺を覗きこむ。綺麗な指が俺の目尻の雫を拭い、そして、


唇に優しく柔らかい感触が乗った。


わお。ちゅーしちゃったよ俺。・・・すんげー積極的っすね。


「ハルト様、お・は・よ・う・ございます」


「あっ、アイシャ・・・おはよう」


「よろしい。昔の女のことなんかすぐに忘れさせてあげますから」


どこか恥ずかしそうに、でも満面の笑みでとんでもないことを口走るアイシャさん。ああ、そうか。


もしかしてハートリーダーで夢の中まで覗いちゃったの?マジで?恥ずいんですけど。


人の夢を覗くなんて、なかなかえっちだと思います。




ーーー


現在朝七時半。いつもだったら本社に八時半に行くんだけど、来なくていいと言われた。


十二時開店まで暇である。


とりあえずベッドの上でアイシャの頭を撫でる。可愛い。


ーーガタンッゴトッ。


ハッ!前言撤回。玄関で不吉な音を確認。


「兄貴!ギター貸して!!」


朝っぱらからやってきましたね。マイブラザー。


「おい!足元見ろ!」


ドアの向こうに精一杯叫んでやる。朝っぱらからうるさくてごめんなさい。


「足元ぉ?あっ!女連れ込んでる!珍しー!お邪魔だ!俺邪魔だ!でもギター貸して!」


「うるせーよ!静かにしろ!」


「兄貴の方がうるさくね?」


たしかに。


「別にエロいことはしてないが、彼女は下着状態だ。だから今すぐ帰れ」


「帰れってここ俺んちだよね」


そうだった!弟には彼女がいて半同棲状態だから忘れてたけど、弟の家でもあったんだ。

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