第7話 6
そうこうしているうちにタクシーで社長と一緒にウェルさんという人が来て、作業場じゃ狭いということで休憩室に移動した。
ウェルさんは白人の若い人だった。若い人、と言っても社長が四十一歳だから、少なくとも三十代には見える。頭皮は白髪で量が足りないので少し残念な感じなのだが、白人の例に漏れず鼻が高い。目は濃い茶色で珍しい色だ。うん、イケメンの部類であるのは間違いない。洋画だったら、主人公をサポートする役の知的キャラで出てきそうだ。
ウェルさんにお茶かコーヒーを出そうかと身構えたが、
「No thank you」
と挨拶もされず、冷たくあしらわれてしまった。こちらから挨拶するべきなのだろうが、ウェルさんはアイシャさんに興味津々なようで、俺には目もくれない。
見つめられてるアイシャさんは不安そうに俺のシャツの端っこを掴んでくる。
社長はウェルさんがアイシャさんに夢中なのを見て、しばらくは話しかけてもダメだと判断したんだろう。咲さんに事のあらましを聞いているようだ。
俺も社長に説明しなければ、と離れようとするのだが、アイシャさんはぎゅっと指先に力を込めてシャツを離さない。
「Is your golden hair ...?」
ウェルの突然発した流暢な英語を聴いて、日本語漬けの俺は思考停止した。
おいおい待ってくれ。こちとら英検三級で自慢でもなんでもないが、要するに高校以来の生英語で俺の和訳機能を起動するのに時間がかかるんだよ。
ウェルさんがアイシャさんに近づいていく。彼の視線の先には金髪があり、触れようとしているようだ。
え?いくら外人でイケメンだからってタッチは許されないぞタッチは。ここは日本だからそんな気安い文化は無い。郷に従え。アイシャさんの王子役(仮)の俺が言うんだから間違いない。
「えっ、あの、ちょっと・・・」
俺の口からは情けない日本語しか出てこない。ちくしょーめ。俺はアイシャさんの王子役を諦めた。
が、隣の彼女は諦めて無かった様子。掴んでいたシャツを体ごと引き寄せ、俺の腕をがっちりホールドする。
アイシャさんは眉をひそめて明らかに怒っていた。
「Duine míshásta!」
デュナミーハースタ?
彼女の口から出た悲痛な叫びはウェルさんの動きを止めるのに十分だった。
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